01


――4年前のあの組み分けの時のことは未だに夢に見る。それだけナマエにとって大切な出来事だったということなのだろう。今、彼女たちは5年生である。同級生の中で魔法薬学と薬草学においてナマエの右に出る者はいなかったし、それ以外の科目ではリリーがいつも学年トップだった。加えて、ナマエについて言えば、彼女は美少女だった。リリーと比べるとあまり積極的な性格ではなかったが、可憐で、"おしとやか"という言葉がぴったりだった。一見すると近寄り難く、少し内気なこともあって交友関係があまり広まらないナマエがリリーをはじめある程度の友人に恵まれたのは、ひとえに社交的なリリーといつも一緒にいたからである。


秋風が冷たさを増してくる頃、リリーはある1つの、厄介で迷惑なことこの上ない問題を抱えていた。ふくろう試験が意識せずとも意識の中に居座り出す時期である。この上問題を抱えるなどまっぴら、丁重にお引き取りいただきたいところだというのに。
彼はそのようなことは微塵も気にしていないようだ。

――ジェームズ・ポッターである。

リリーとナマエは彼らのグループが大嫌いだった。彼らの"悪戯"は、悪戯の域を超えてひどいものだったからだ。
にもかかわらず、ジェームズはリリーのことが好きだと言う。最近は顔を合わせるたびにリリーを口説こうとしている。リリーとナマエは大抵一緒にいるから、ジェームズ達に遭遇するときは必然的にやりとりを聞くことになる。初めのうち、ナマエはいくら彼らが嫌いだからといってあからさまにそれを態度に出すのは控えていたのだが、あまりに毎度のことすぎるのでもはや隠そうともしていなかった。

また、同じ様にシリウス・ブラックはジェームズといつも行動を共にしていた。だからナマエとシリウスもよく顔を合わせていた。

シリウス・ブラック。
彼は文句なしにかっこよかった。美しい黒髪に灰色の瞳、それは多くの女生徒を引き付けている。
ナマエも美人なので、シリウスと2人「美男美女」と言われることがよくあったが、ナマエはこれが嫌だった。

ただ、彼女はシリウス(ジェームズ達を含めて)が嫌いでそれは自他ともに認めることではあったのだが、彼が純血にもかかわらず、それを憎んでいることについてはそれを(密にではあるが)評価していた。


「やあ、エバンズ!偶然だね!元気かい?」
階段を降りたところでジェームズ・ポッターその人に遭遇してしまった。
偶然、と言っているが、ジェームズはこの機会を待っていたに違いない。

「何の用?私はあなたに話し掛けてもらいたくないんだけど。」
とリリー。
「ひどいな。僕はただ君が好きなだけなのにさ。」
「何度言えばわかるの?!私はあなたと付き合うなんて気はさらさらないし、あんないやがらせを毎日やっているような人と付き合う理由がわからないわ!」

リリーが一蹴した。

するとジェームズが180度矛先を変えて言った。
「ミョウジ、君もエバンズを説得してくれよ!」
「嫌よ。」
いきなり話を振られて少しイライラしながらナマエは答えた。

「何故だい?!僕が君に何かしたかい?」
「理由を言わなければいけないなら言うわ。あなた達が嫌いだからよ。」

「これはこれは!さすがに『学年一の美少女』様は全く手厳しいことで!」
それまでやりとりをニヤニヤしながら黙って見ていたシリウスが口を挟んだ。たっぷりの皮肉がこもっている。
それを聞いたナマエも眉をしかめ、ありったけの皮肉をこめて言い返した。かなり怒っている。
「あなたに言われたくないわね。自分達がやってることの意味さえわからないなんて、さすが、『学年一の美男子』さんだわ。」

2人は本来の当事者であるリリーとジェームズをよそに睨み合った。2人からすれば不愉快極まりないだろうが、端から見ればそんな風に睨み合っている場面さえ、絵になるのだった。

「ナマエ、もう行きましょ。こんな人達と話すなんて時間の無駄だわ!」
「本当にね。」
そう言って女の子2人は歩き去った。
ジェームズはリリーを呼び止めたが、リリーはきっぱりと無視した。


「全く、僕が何をしたって言うのさ?君もそう思うだろ。――おーい、聞いてるかい?パッドフット!」
「…あ、あぁ、悪い。」
シリウスは2人が去った方を見つめたままだった。

「どうしたんだい?君があんな風に口を挟むなんて、珍しいじゃないか。何かあるのかい?――あ、もしかして、彼女、ナマエ・ミョウジ?まあ、確かに君達なら似合うと思うよ…」
「…おい、プロングズ。」
「何?」
「呪うぞ。」
「うわっ!ごめん。悪かったよ!君がそんなことを言うと本当にやるから怖いんだよ…」
「は、あいつが何だっていうんだ。バカバカしい。」

そう呟くシリウスを、ジェームズは面白そうに眺めていた。



それから数週間。ジェームズ達とリリー達はしばしば出くわし、そのたびにジェームズはリリーに猛アタックを浴びせていた。その間ナマエは慣れたもので、魔法薬学の参考書を取り出して読むようになっていた。

一方シリウスはといえば、ジェームズとリリーのやりとりに口を挟むことはなく、大抵何か考え込むようような様子でちらちらとその視線はナマエを捉えては離していた。それにナマエが気付いていたかはわからないが。

――プロングズが、余計なことを言うから…――
シリウスは始めそう思っていたのだが、リリーとナマエに――ナマエに――会う回数が増すほどに、彼女のことをはっきりと意識するようになっていた。

ゆるくウェーブのかかった長い金髪(屋外で見ると日光のせいもあって細い金髪が透けるように輝いて見えることにシリウスは気付いた)、少し灰色がかった青い瞳(見る角度によっては青が強くなったり灰色が強くなったりする)。その目を長い睫毛が縁取っている。男子生徒が騒ぐのももっともだ。

そんなある日、ジェームズがあの、面白いことを考えたという顔で、それでいてちょっと不安そうな顔でシリウスのベッドのカーテンを上げた。

「パッドフット、協力してくれよ。」
何の前置きもなく(大体いつもそうだが)、それだけ言った。

「何を?」
「僕とエバンズを、2人きりにする協力さ。」
「何で僕が。ムーニーやワームテールに頼めばいいだろ。」
「ムーニーは無理だ。満月が近いからね。ワームテールは…あいつが、エバンズとミョウジを引き離せると思うかい?君だから頼むのさ。それに、パッドフット、君、ちょっとミョウジのこと気になってるだろ?冗談じゃなくて本当に。おっと、怒るなよ。見てれば何となくそんな風に見えるんだから。だから、協力してくれよ。どっちも2人になれて、一石二鳥じゃないか。」

しばらくシリウスは考えていたが、遂に言った。
「わかったよ。協力する。…で、何をしろと?」
「えぇと、とにかく、ミョウジをエバンズから引き離してくれれば、それでいいんだ。やり方は君に任せるよ。」
「いつ、やるんだ?」
「早い方がいいからね。早速、明日はどうだい?あの2人に会った時ってことで。」
「本当、突然だな。いいぜ、わかった。明日だな。」
「応援するよ、パッドフット。」
自分も応援される立場なのに、ジェームズは至極真面目ぶって言う。

「君がもしミョウジと仲良くなる、なんてことになればこっちもやりやすくなるってものさ。」
"もし"がかなり強調されている。
「自分の心配だけしてろよ。」


そして2人は顔を見合わせ、にっと笑った。

20131015

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