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朝に見た星座占い。
しし座は見事一位。
ラッキーアイテムはピアノで、ラッキーカラーは黄色。
アイドル顔のキャスターが『素敵な笑顔で最高の一日になるでしょう』と笑顔で言っていた。
無垢に信じてる訳じゃない。
根拠もないし、僕はその類い全般、信じてないもの。
だけど、ただ。
もしも、叶うのなら、願いを。
◇
窓の外に広がる町並みは夕焼けに赤く染まり、家々にポツリポツリと明りが点り始めてた。近くを通れば、何処からともなく鼻腔を擽り食欲を誘う香りがするんだろう。
先ほどまで部活動に励んでいた生徒達は、今頃その匂いに帰路の足を速めているのかもしれない。グラウンドから聞こえていた活気ある声は、今はもう聞こえなかった。
下校時間を優に過ぎた時刻。
校舎に残っているのは、期末テストの採点に追われる教員達と、非常勤の事務員。
それと、僕達。
「っは、……ぁ!」
防音対策の施された音楽室。グランドピアノに上半身を預け、甘ったるい喘ぎ声をあげる。
「きもち、……イイ?」
後ろで腰を振る男が聞いてきた。声が弾んでいるのは、過信の表れか。
「っは、……きもち…イイッ」
「俺、うまいだろ?」
「う、……さいっこ……──ぁあ!」
期待通りの返事に気を良くしたのか、探るような緩やかな突き上げが途端に激しく乱暴なものに変わる。
突然の強い衝撃に、僕は思わずピアノの蓋に爪を立ててしまった。光沢ある表面に傷がつく。
それは小さく、近くで見なきゃわからない程度なのだけど。
(ラッキーアイテム傷付けちゃったよ……)
この場合運が減少したり無くなったりするものだろうか。
なんて悠長な考えを巡らせていたが、
「ッ─あ゛ァ!!」
再び襲ってきた強い衝撃に思考を掻き消された。
後ろの男はひたすらに自分の快楽だけを求め、がむしゃらな挿入を繰り返す。
「あ゛っ……ぅ゛」
脂汗が一気に吹出してきた。顔も歪んでいるだろう、眉間には数本皺が刻まれているかも。
これはマズい。
呑気に思考に浸ってる余裕はない。
――痛すぎ。
「ッ……」
僕は奥歯を噛んで痛みを耐える。それから打ち付けられる動きに合わせ腰を振り、受け入れてる穴を収縮させた。
「う゛ッ……」
その締付けに促されるように、突っ込んでた奴は呆気ない程早々にイッたみたい。
小さな呻きと共に、激しい律動がピタリと止んだ。
それは幸いだけど。
(……だっさ。下手なうえ早漏じゃん)
拷問に等しい行為が終った事に安堵しながら、ぼんやりとそんな事を思った。
「俺とさ、付き合わない?」
乱れた服のまま床にペタリと座る僕の横。さっきまで腰を振ってた男は、制服を整えながら聞いて来た。
目線だけで男を見上げる。
「男とするのは初めてだけど、今までで一番気持ち良かった」
ニヤニヤと下卑た視線で僕の身体を舐め回す。僕は笑みを浮かべた。
「セックスの相性が良いから、付き合いたいって事ですか?」
「相性って大事だろ」
もっともらしい事を宣う男に顔が引きつりそうになる。
その衝動を懸命に抑えてる僕の努力なんて知らないだろう。
男は呑気に続けた。
「それに、さ」
顎をとられ、上を向かせられる。
「顔が好みだ」
言いながら近付いて来る男の顔。僕は顔を背ける事で行為を避け、笑顔を貼り付けたまま非難の視線を向けた。
「ごめんなさい。僕はそんな相手、求めてないんです」
「求めるのはかりそめの相手?」
「はい」
頷けば男は喉で笑う。
「いいね、好きなタイプだ」
「有り難うございます。でも、付き合う事は出来ません」
「諦めないって言ったら?」
「〜、」
疎ましさに込み上げる苛立ち。
(最高の一日どころか、事態は悪化の一途じゃないか……)
媚びた態度が鼻につく、朝見たアイドル顔のキャスターが脳裏に過る。八当たりだろうけど、抗議文を送りたい心境だ。
「〜とにかく、僕は貴方と付き合う気はないですから」
「ならセフレは?」
「いりません」
ピシャリと言い放てば、目の前の男は空々しい溜め息を吐いた。
「今日の所は諦めるか」
「他日でも気は変わりませんよ」
「またシようね」
「機会があるなら」
遠回しな拒絶は伝わっていないのか。男は立ち上がり、笑いながらバイバイと手を振り音楽室を後にしていった。
「……はぁー……」
ドアが閉められ足音が小さく遠ざかるのを待ってから、僕は盛大な溜め息を吐いた。
「っとに、……めんどくさいなー……」
くしゃりと頭を掻いて、独り呟く。
今までもこんな展開になる事はあったけど、今回の奴は少ししつこかった。
僕はただ、セックスをした既成事実さえあればいいのに。
「……でも」
事実は成立した。思わず顔がニヤける。込み上げる声は流石に抑えたけれど。
軋む半身に力を入れて立ち上がり、乱れた衣服を整える。それから投げ捨てられたゴムや飛び散った精液の後始末を始めた。
前までは虚しさを感じながらしていた行為だけど、今は全く感じない。この後の事を考えれば嬉しい下準備にすら思える。
さっさと済ませて帰ろう。
きっと、彼が待っている。
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