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「ほんと、かわい」

 目を細めてそう呟くと、樹は再び唇を重ねてくる。今度は軽く触れるだけで、離すと俺の身体を強い力で抱き締めてきた。

「ねえ、どうして逃げた?」

 耳元で問われて身体が硬直する。樹との約束を破って、逃げてしまった後ろめたさのせいかもしれない。

「ご……めん。……でも、樹が変な事するから……」
「変な事って?」
「っ〜、」

 わかった上でわざと聞いてくる樹に焦れったさを感じながら、俺は訴えた。

「な、樹。学校ではやめよ? 家でならいくらでも……するから、学校で変な事は……」
「だから変な事って何?」

 樹の声は鋭さ持って俺の耳に冷たく響く。樹の機嫌が悪くなってきた表れだ。その声に俺達を纏う空気まで冷えて感じ、上擦りそうになる声を抑えて俺は続けた。

「……触ったり、……キス……するの」

 何とか絞り出した言葉に、樹は俺を抱き締める腕をといた。それでも腰に回した腕は離さず、指の背で俺の輪郭をなぞるように撫でながら樹は聞いてくる。

「学校ではあやに触れるなって?」

 頷けば瞬時に樹の目から暖かさの色が消える。冷やかなその目で俺を見下ろし、樹は言った。

「それなら学校なんて来なきゃいい」

 余りにも横暴な樹の言葉に、呆気にとられ絶句した。そんな俺に構わず樹は続ける。

「ああそうだ。あやを俺の部屋に閉じ込めちゃおうか? 鎖とか手錠なんか使って。趣味じゃないけど、相手があやならゾクゾクする」

 目に奇妙な色を宿しながら楽し気に語られる提案は、とても冗談に聞こえない。その恐ろしい案を否定したくて、俺はふるふると首を振った。

「や、……やだ……、いやだ……」
「でもね、あやが近くに居るのに触れられないなんて、そんな生殺しみたいな事俺には耐えられないんだよ」

 空々しく傷心の面持ちで言われる理屈は実に単純なのだけど、俺には理解出来そうにない。

「……ごめん。も、触るななんて、言わな……から、」

 だけど、俺は理解する必要はないんだ。ひたすらに樹の要求に応え、要望を受け入れる。
 そこに俺の考えは、邪魔な物でしかない。

「なら触っていい?」

 確認された質問に小さく頷いた。ともすれば中心部をキュッと露骨に掴まれ、俺は短い悲鳴をあげてしまう。

「あれ、もう萎えちゃった?」

 期待してた手応えが得られなかったせいか、拍子抜けした調子で樹が聞いてくる。
 樹との一連のやり取りで熱は引き、俺の物は言葉通り完全に萎えていた。
  
「……もう平気だから、……教室戻ろ」

 状況を打破したくてそう切り出してみるが、

「まだ俺の気が済んでない」

 あっさりと拒まれる。
 予想はしていたけれど、樹の返答に内心で落胆してしまう。
 そんな心情など露知らずというように、樹は俺の身体をタイル貼りの壁に押し付ける。制服の生地越しに伝わる熱を奪うタイル特有の冷たさに、俺は小さく身を震わせた。

「それに、不完全燃焼って体に毒だしね」

 気を遣ってるようで自分の事しか考えてない樹の屁理屈と共に、中途半端に外していたベルトを外されズボンを寛げられる。

「──あ、」

 するりと下着の中に入り込んだ樹の手が俺自身に触れれば、驚きに声を洩らしてしまう。それに気をよくしたのか、樹は俺自身を下着の外に取り出すと直ぐに抜き始めた。
 上下に擦られるだけで身体がビクビクと跳ねる。生地越しに感じたもどかしい感覚とは違い、ダイレクトに与えられる強い刺激は直ぐに快感を引き起こし、自然と蹲るように背を丸めてしまう。
 だけど樹はそれを許さず動かしていた手を止めると、

「顔、見せて」

 俺の前髪を掴んで伏せ気味だった頭を無理矢理上に向かせ、痛みを叫ぶ間もなく唇を重ねてくる。

「そういえば、自分でするんだっけ」

 口を離して思い出したようにそう言うと、掴んだ前髪を離す事なく樹は俺の手を自身に導いた。触れさせられた自らの熱に驚き手を引っ込めようとするが、重ねられた樹の手に阻まれる。
 俺はどうすればいいかわからず、助けを求めて樹を見上げた。けれど樹は出来るよね? と笑うだけで解放してくれそうもない。
 自尊心と羞恥心に戸惑い躊躇してしまうけど、やらなきゃいつまでもこのままだ。だから目を瞑り、意を決して俺は手を動かした。

「……っは、……」

 少し動かしただけで燻っていた熱に火がつき、下腹部の奧から波のように快感が押し寄せる。荒くなる息と自身を擦り上げる音が狭い個室に留まり、壁に反響して耳に届き脳髄に触れれば羞恥心をより煽る。
 いま俺の顔は、きっと真っ赤だろう。

「あやのお願い、少し聞いてあげる」

 唐突な言葉に薄く目を開ければ、恍惚とした笑みを浮かべる樹の顔が視界を埋める。樹は表情を崩さず口を開いた。

「人前であやにちょっかい出すのは止めるよ」

 まるで誓いをたてるように、俺の目を真っ直ぐに見て言った。



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