For one week | ナノ


 
 つられて時計を見れば、いつの間にか授業時間は残り十分程度となっていた。俺は慌てて再びテスト用紙に向かう。

「……ごめん、早く……終わらせる……」

 そう言ってはみるが落ち着かない。焦りもあるけど、それよりも集中力を散漫させたのは、反らされる事なく痛い程に注がれる樹の視線。

「……樹……」
「ん?」
「……見られてると……やりづらい」

 堪らず控えめに抗議をすれば樹は喉で笑う。

「どうして? まさか恥ずかしいなんて言う?」

 テストに向かったまま頷くと、微かに身を寄せてくる気配。先ほどより詰められた距離で樹は囁いた。

「今更じゃない? 俺達全部見せあった仲なのに」
「ひッ―」

 思わずあげそうになった悲鳴を、俺は咄嗟に手で覆う。予期してなかったと言うより、教室で『何か』して来る事は有り得ないだろうと高を括っていた。その有り得ない事が身に起きてしまった。

 机の下で樹の手は、布越しに俺のモノを掴んでいた。非難の視線を向ければ、樹は口端を上げる。

「……いつきっ……!」

 抑えた声で叫び首を振る。止めて欲しい意思表示のつもりだったのだけど。
 通じてないのか、わかりつつやってるのか。樹の場合は後者だろう。樹の手は退く様子はない。それどころか、緩慢に撫でる様な動きを始めた。

「っいつき……! やめ、ろ……っ」

 左手で口を押さえたまま、右手で樹の腕を掴み何とか止めさせようとする。誰かにバレるんじゃないか、という強迫観念と危機的状況に脂汗が滲んだ。
 だけど樹はそんな俺の心情も何処吹く風、微妙に強弱を加えた愛撫を続けながら言った。

「そんな事言って感じてるくせに」
「……ちがぅ、……ほんと……やめ──っ!!」

 俺の懸命な訴えを嘲笑うように、樹は強く握り込んでくる。その強烈な刺激に、俺は声を飲み込み背を丸めた。そんな俺に一層身を寄せて、故意だろう、樹は熱っぽい声であや、と耳元で囁いてくる。

「嘘は駄目だよ? しっかりカタくさせといて」
「っ〜〜、」

 樹は握り込んだ手を弛めると、今度は形を縁取る様な手付きで上下に擦り始めた。

「……ゃめ……ぃっ、きっ……」

 虫の息とはこういう事を云うのだろうか? なんて思う弱々しい声しか出ない。樹の与えてくる刺激に身体が震え、口を覆っている手を放せば声が漏れてしまいそうだった。
 危機的状況を脱する策を練るため頭を働かせようとするけど、まるで邪魔するように樹は巧みに刺激を加えてきて、その度に集中力が乱された。
 何とかしないと教室で醜態を晒す事になってしまう。

 それ程に自分の身体に渦巻く熱は、抑えが効かなくなっていた。

(ヤバい……ッ、ヤバいヤバい!)

 押し寄せる快感の波に理性が霞み、我慢も一本の糸でギリギリ堪えている状態になり始めていた時。

 ──授業の終わりを知らせるチャイムが響いた。
 反応して樹の手が止まる。

 その一瞬の隙を見逃さなかった。

「っ、」

 俺は口を押さえていた手を放し、樹の体を両手で突っぱねた。
 力が入り切らなかったけど、ギギッと鈍い椅子の音を鳴らして樹の体は後ろに退いた。共に手も離れる。
 驚きに目を開いた樹と目が合って、俺は逃げるように駆け出し、後ろの戸口から教室を飛び出した。
 クラスメイトの何人かが不思議そうな目を向けていた気がする。

 だけど、気にしてる余裕なんて無かったんだ。

 走る動きに合わせ衣服が動き、敏感になったソコを掠める。その度に身体を電流の様な刺激が突き抜け、必死で堪えて縺れそうになる足を進ませた。
 目指すのは突き当たり角を曲がり廊下を進んだ先にあるトイレ。教室から離れ、美術室や音楽室が並ぶ場所にある其処は、利用者が著しく少なく逃げ込み場所に打ってつけだった。

 目的地のトイレに着き、間髪入れずドアを開けて入った勢いそのまま、個室に飛び込んだ。

「っは……はぁっ、……はあ!」

 戸に背を凭せれば、荒れた呼吸に肩と胸が上下して、汗が滝のように流れた。それは走ったせいだけじゃないのかもしれない。

 未だ熱を発するソコに目をやれば、存在を主張するようにズボンを押し上げていた。
 此ればかりはどうしようもない。
 理解していても、弄られ樹の期待通りの反応をしてしまった自分の身体の浅ましさに、俺は顔を顰める。
 でも今はそんな事を嘆いてる場合じゃない。多少引きこそしたものの、身体中の熱は未だ俺を苦しめたままだった。
 何とかしないと。と思うけど、その思いとは裏腹にこの熱を静める唯一の考え付く手段は、行動への戸惑いを生んだ。
 した事が無いわけじゃない。だけど小さな自尊心に躊躇してしまう。

 この熱を静める方法。

 自慰行為……しかないんだろうな。

(……仕方ない、か)

 葛藤を振り払い、踏ん切りをつけるように落ち着き始めた呼吸に乗せて溜め息を吐いた。
 覚悟を決めてベルトに手を移し、燻る戸惑いが手付きをのろりとさせながらもベルトを外す。そして、ズボンのホックに手をかけた時。

 コンコン、と控え目なノック音と振動が身体に伝わってきた。
 


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