For one week | ナノ


 
 俺達兄弟は仲が悪い。

 昔は一緒に出掛けたり、隠し事もせずなんでも話し合えるほど仲が良かった。
 だけど少し前から、突然樹が俺を避けるようになったんだ。

 最初は思い過ごしかと思ったが、二・三日素っ気無い態度をとられれば確信になる。
 樹の気に触るような事をしたのかと数日の行動を顧みるが、思い当たる節はなくて。それでも気付かない原因があるのかと話しをしようとしたが、取り合ってさえもらえなかった。
 原因が分からない俺は戸惑い、冷やかな態度に耐えれなくなって、自然と樹を避けるようになっていた。

 それから少し経った頃だ。

 散々俺の存在を避けていたはずの樹が、今度は俺の行動を極度に干渉して来るようになった。
 帰るのが少しでも遅くなれば『何してた?』『誰といた?』『何処に行ってた?』と聞かれ、出掛けようとするだけでも『何処に行くんだ?』『誰と会うんだ?』と尋問のような質問攻め。

 そんな樹が段々と疎ましくなってきて、弟として大好きだった筈なのに、いつの間にか嫌いになり始めていた。




「綾斗」
「……」
「綾斗ー」
「………」
「あーやーと」
「…………ごめん、」

 校舎を出て校門の前。
 春の風も三番まで暴れ終り、緩やかになった五月の風が身体を撫でていく中で、俺は歩みを止めて呟いた。後ろから着いて来ていたすぐるの足音も、少し遅れて止まる。

「すぐるは何も悪くないのにな……」
「……綾斗?」

 睨まれて頭に血がのぼった。そんなに俺が嫌いなのかよって思った。本当は樹と元の仲に戻れたらって思ってたから、悲しくなった。
 もう昔みたいな仲に戻れないのかなって、泣きたくなった。

 もう一度ごめんと言えば、すぐるの大きな手がくしゃりと俺の髪を乱す。その優しさに目頭が熱くなった。
 やばい、ちょっと泣きそう。
 俯いて必死に涙と戦っていれば、その涙を吹き飛ばような明るい声が聞こえてきた。

「駅前に新しいクレープ屋が出来たらしいんだけど、今から行かない?」

 顔を上げてすぐるを見た。

「ク、レープ?」
「そ、」
「でも、バイトは?」
「今日休み」

 すぐるからの突然の誘いに、俺は考えを巡らせる。

 帰ったら樹がいる。

(……帰りたくないな)

 時間潰しと気分転換をしたい気分だった。
 何より俺は甘い物が大好きだから。

「行く」

 すぐるの案にのった。

「よーし、じゃあ今日は俺が奢ってやる」
「本当?!」

 だから行こうと目を細めて言われ、俺は笑顔で頷いた。
 
「あの!」

 校門を出た直後、横からかけられた声に俺達は足を止める。

 視線を向けた先には、見知らぬ三人組の女の子。駅の向こうの女子高の制服だ、と思いながらすぐるの知り合いかと目配せするが、すぐるも知らないって顔をしてた。
 俺達の後ろを歩く人に声をかけたのかと辺りを見渡していたら、二人を引き連れるように真ん中に居た子が意を決したように口を開いた。

「速水君……ですよね?」
「っへ?」

 間抜けな声が漏れる。見知らぬ相手から出たのは俺の名字だった。なんで知ってるんだと言う不信感から、俺は女子生徒に怪訝な目線を向けてしまう。
 女子生徒はそれを気にせず、言葉を続けた。

「樹君のお兄さんの」

 あ。なるほど。

 その一言で納得した。

「あの、樹君に……これ、渡して貰えますか?」

 頬を赤らめながら伸ばされた手の中に、花柄で可愛らしいピンク色の封筒が収まっていた。俺の胸元に突き付ける形で差し伸ばされたから、反射的に受け取ってしまう。

「あのさ、こういうのは……」
「お願いします!」

 隣からすぐるが言おうとした言葉を遮り、道義的なお辞儀をすると、3人組はキャーキャー叫びながら嵐のように走り去って行ってしまう。
 あっという間の出来事に俺は呆気にとられた。
 追う事も呼び止める事も出来ず、小さくなって行く後ろ姿をただ、見送ってしまった。

 左手の封筒に視線を落とす。
 可愛い文字で『速水 樹君へ』と書かれていた。

 ラブレター、……なんだろな。

「……はぁ」

 見つめて思わずため息。そんな俺の横から小さく舌打ちが聞えた。

「っとによ、手紙くらい直接本人に渡せってのな!」
「……うん」
「こういうのはさ、巻き込まれるヤツにどれだけ迷惑掛るか、気遣えない奴なんか付き合えるわけねぇっての!」

 むかつく、と怒りを露にするすぐるを見て、俺は思わず吹き出した。

「……何笑ってんだよ」
「いや、っはは。すぐるってイイ奴だなー、って」

 俺の事なのに、まるで自分の事のように全身で怒ってくれてる。

「なーに、今さら気付いた?」
「うん」

 茶化すように言われた疑問に即答すれば、ありえないと言いたげにすぐるは顔を歪ませた。
 もちろん冗談。

 樹との関係が悪くなった辺りに転校して来たすぐると仲良くなって、落ち込んでる時すぐるの存在は心の支えだった。
 今こうして笑ってられるのも、すぐるのお陰と言っても過言じゃない。

 心底感謝している。

「ひでー! もうクレープ奢るのやめよっかな……」
「わーっ待って! 冗談、冗談だから! すぐるイイヤツ! ずっと思ってました! 感謝してます!」

 クレープ欲しさに慌ててフォローすれば、現金って笑われながら頭を小突かれた。


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