7
ベルトに添えた手が震える。
それじゃまるで、俺が望んで樹とするみたいじゃないか。
「どうしたの?」
一向に脱ぎ始める気配を見せない俺に、樹が問いかけてくる。
「………で、……きない……」
恐る恐る言えば、樹の顔から笑みが消えた。
「焦らしてる?」
樹の問いに首を横に振ると、なら早く脱いでと催促される。俺はそれにも首を振った。
「どうして脱げないの?」
「……は、ずかし……」
「これからもっと恥ずかしい事するのに?」
それがわかってるから、脱ぐことが出来ないんだ。なんて事は言えないから口を閉ざしてる俺に、あや? と樹は催促するように呼びかけてくる。
俺は小さく首を振った。
「や……やだ……、……むりっ」
「あや、いい加減に…」
「嫌っ、……嫌だ!」
「あや!!」
駄々を捏ね続けるのに苛々したのか、樹は大きな声で俺を一喝する。その声に驚いて、一気に涙が溢れ出た。樹はその涙を指で拭いながら、宥めるような口調で再び言った。
「あや、脱いで」
……脱がないと。
そうは思うけど、ベルトに添えられた手は震えるだけで意志を持って動かせそうもない。
自分で脱ぐなんてやっぱり無理だ。
だけど、脱がないと樹は納得しそうにないから。
「……いつき」
樹を上目に見て、浅く息を吸ってから言った。
「………脱がせ、て……くれないか」
自分で脱ぐより、脱がされる方が楽だと思った。される事を堪えてればいい。
樹は一瞬驚いたように目を見開いた。それから直ぐに口角をあげた不適な笑みを浮べる。
「へぇ、可愛い事言うね」
「っわ」
胸元を軽く押され、起こしていた半身が再びベッドに沈んだ。
「もう嫌がっても止めないから」
低く、先を急ぐような少し早口の言葉が終わらない内に、カチャリとベルトを外される音が聞えた。ベルトが抜かれるのが微かな振動でわかる。
もう逃げられない。逃げる訳にもいかない。
諦めに似た覚悟を胸に、俺は顔を背け目を固く瞑った。
ズボンのホックが外され、ファスナーに移る。見ないようにしても視覚以外の感覚が冴え、現状を事細かに脳に伝達してくる。
嫌でも頭の中は自分のされてる事を、その先を想像してしまい、羞恥心でグチャグチャになりそうだった。
トサッ、と床に軽い物が落とされる微かな物音が耳に触れる。
それは、俺の穿いていたズボンが床に落とされた音なんだろう。
俺の下半身は、完全に露になっていたから。
今の俺ははだけたワイシャツを纏い、辛うじて脱がされていない靴下を履いてるだけという不様な格好。
殆ど全裸に近いその姿を、裸を樹に見られているのだと考えるだけで、消えてしまいたかったのに。
「っひぁ!」
中心部に突然生じた湿った生暖さに、俺は素頓狂な声をあげてしまった。
まさかと思い頭を擡げ下半身に目をやれば、我が目を疑う光景。
樹が俺のを咥えていたんだ。
「うそっ、樹、止めろよっ……汚……──っあぁ!」
俺の抗議を制するように、樹は口に含んだ俺のモノを急激に吸い上げる。思いとは裏腹に、その刺激に身体は素直に反応してしまう。
羞恥心とか、弟に咥えられてる背徳感とか罪悪感とか、色んな物が混ざってまた涙が溢れた。
「やめ……! ……放、……せ!」
俺は樹の髪を掴み引き剥がそうと試みるが、沸き上がる快感の波に邪魔され力が入らない。息も絶え絶えに必死に制止を訴えたけど、完全に無視され樹は俺をどんどん追上げていく。
もう、かなり限界に近かった。
「っも、出るからっ……はな、せ!」
樹の口に出すのは嫌だ。だから俺は臨界点ギリギリの射精感を必死に堪えて、放してくれるように訴えた。なのに樹は放すどころか、出せと言わんばかりに一層強く吸い上げてきて、
「ぁあ! ッん゛──」
その刺激に俺は堪えられず、出してしまった。
「まずいね」
ゴクリ。と嫌味な音が聞えた後の声は、意味とは裏腹に満足気だった。
「……は、……はぁ」
それとは真逆に、俺は最悪な気分だった。弟にフェラされた上、飲まれるなんて。
本当、最悪。
「なんか喉がイガイガする」
「っ、……だから……放せって、……言った」
射精後の気怠さに口だけ動かし文句を言えば、飲みたかったから。と耳を疑う返答が聞えた。
「あやのだから」
「は……?!」
「他の奴なら死んでもしないけど、あやのだからいいんだよ」
「………」
「だから、さ」
俺もあやにして欲しい。
笑みを浮かべ言った樹の言葉に、俺は多分、露骨に表情を歪ませてしまっていたのだろう。今じゃなくていいよ。と笑いながら捕捉された。
「あやのお陰でもう勃ってるし、」
言いながら樹は腰を俺の股の辺りに押し付けて来る。布越しでもわかる昂りに、俺は息を飲んだ。
「何より今は、早くあやと繋がりたい」
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