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耳元で囁かれた言葉を合図に、硬い物が滑りを持って入り込む。急激な圧迫感に襲われ、俺は声に成らない悲鳴を上げた。
「っ、あや。……力、抜いて」
「ぅ゛……っは、……は、っ……あぅ」
息がうまく出来ない。樹が何か言ってるけど、理解出来ない。
「いっ……たぁ、……あ゛、」
痛みに押し上げられるように、ボロボロと涙が溢れてくる。悶絶する俺を知ってか知らずか、俺自身を樹が抜き始めた。
どんな状況でも体は素直に反応して、前から沸き上がる快感に気が逸れ、異物感に収縮していた後孔が微かに弛んでしまう。
「っああぁぁぁ──!!!」
それを見計らったように、入り口辺りで止まっていた異物は奥まで一気に侵入してきた。目が眩む程の衝撃に、俺は悲鳴をあげる。
「……入ってる」
「っん……ぐ、……はぁ……あ゛」
「ね、わかる? 俺のがあやの中に入ってるんだよ」
「っ……!」
その言葉に、苦しみながらも中の異物の正体を知った。
「俺と、あやが、……繋がってる……」
耳元でうっとりと囁く樹は、喋り終わると同時に腰を動かし始める。
「ッい゛……あぁ゛あ! ぬぃっ……てくれ……!」
「っは、……少し、っ……我慢して。いま気持ちよく……したげるから、」
「やだっ、あっ、痛いっ……ぁあ゛」
「確か、この辺り……っ」
「ッや、……ああぁぁ!!」
ある一ヶ所を突かれた時、先程感じた電撃のような感覚が襲って来て衝撃に叫ぶ。
「あは、見付けた」
俺の反応に嬉々とした声で呟くと、樹はそこばかりを攻め始めた。
「やっ! はっ……は、……んぅ! ぁあ!」
「……いい声」
「あぁ! ……はぁっ! あ、……は!」
痛みすら麻痺させる強すぎる快感が堪らなくて、ギリギリ残る理性を働かせ逃げようとするが、樹に肩と腰を掴まれ許されない。
俺の抵抗が塞がれていく間も、樹は休む事なく後ろから突き上げ続けた。
「あ゛っ、あぁ! やめっ……いぁあ!!」
「あやの中、熱くて、……気持ちいい」
「んあぁ! ひっ、ああ!」
「この熱に溶けて、一つになれたらいいのに」
樹の言葉が耳に入らない。俺の後孔は樹をしっかりと受け入れながら、大きな水音をたてていた。理性は片隅に追いやられ、俺は本能のまま与えられる快感にひらたすら喘ぎをあげる。
快楽の波が強さを増し、再び絶頂が近いのを感じた。
「あや。俺と付き合ってくれる?」
「っん! ……やだっ、──あぁっ! や、……んぁ!」
『付き合う』と言う単語に、微かな理性が働く。俺は喘ぎに混じりながら、頑なに拒んだ。
「はっ、は、……も、出そ……──あ゛ぁ!!」
絶頂に向かって高まっていた熱の流れが、突然に塞き止められた。腰の動きを止めた樹が、俺自身の根元を痛い位に手で締め付けてきたのだ。
「ッいつき! やだ、……はな……せ!」
「なら付き合って」
「やだっ……ア! はなし……アァ!」
根元を締め付けながら、樹は腰の律動を再開させる。熱の解放を塞き止められてる今では、その打ち付けから生まれる快感は苦痛になって俺を苦しめた。
「あ゛ぁ! っ……たのむ、……放しっ……くぅ!」
本当に苦しい。さっきの痛みも目じゃない程だ。
そんな俺を更に苦しめるように、背後からの突き上げは激しさを増した。
「頼っ……む! っあ゛あ! ……はなして! はなっ……やあ゛ぁ!!」
「俺と付き合うなら、放してあげるよ」
「ッ、」
──付き合うなら放してあげる。
その言葉が甘美な誘惑に思えた。
「あ゛っはぁ…、っん゛! ……はな……し……」
「付き合う?」
「っ……、」
それで楽になれるなら。
この死にそうな程の苦しみから解放されるなら、と。
俺はその甘い囁きに、夢中で頷いていた。
「じゃ、言って。あやの口から」
「あ゛ぁッ、……な゛に……ぃ?」
「俺と付き合う、って」
「あっ、ん、つきあっ…う、──んあ゛! っ……付き合う、からぁ!」
「俺の事が好き、愛してるって」
「いつっき……あ゛ぁ! す、……好きぃ! 樹がっ、すき! 愛してる!!」
「ヨクデキマシタ」
「っ、ッ──!!」
手の締め付けから解放された直後、絶頂に追い詰めるように深いところを突き上げられ、元から絶頂直前だった俺は直ぐに白濁した液体を放出した。それを追うように、奥に暖かいモノが流される。
「あ……あぁ……あ」
塞き止められてたせいか、俺自身からは今だ出し足りないとばかりにトロトロ精液が流れ続けている。その放出を助けるように、樹は俺自身を擦り上げた。
「……は、……はぁ」
全て出し切った解放感と急激にのし掛かる疲労感が身体を重くする。力なく壁に凭れ掛れば、樹は後ろから腕を回し抱き締めたてきた。
「あやは俺の物だ、俺だけの物。……誰にも渡さない」
俺を抱き締めたまま、樹は独り言のように呟く。その腕を振り解く気力も言葉を理解する余力も、今の俺にはなかった。
中に出された気持ち悪さも今だ樹のモノが収まったままの異物感も、全部どうでも良い。
全てを無かった事にしたくて、疲労から襲い来る睡魔に身を預けて。
俺は眠りに堕ちた。
◇
気付いたのは漆黒の闇の中。何もない、と言うより何も見えない。だけど心地好くて、安らげる場所だった。
「あや、起きて」
その暗闇を引き裂くように俺を呼ぶ声が響いた。共に頬をヒタヒタと軽く打たれる。
──嫌だ、今は起きたくない。
俺は頬に触れる物を手で払い、浅くなった睡眠を深い物にしようと、再び暗闇に身を投じた。
だけど、そうもしていられない衝撃が身体を駆け巡る。
「──ッぅあ!!」
強制的に脳を覚醒させる衝撃に、俺は目を見開いた。開けた視界に俺を見下ろす樹の姿が飛び込んでくる。
樹は笑みを浮かべた。
「まだ寝る時間じゃないよ」
言いながら樹は何かを抱えあげ自らの腕に乗せる。それと共に俺の身体が引っ張られ下の柔らかな物に沈んだ。
樹が抱えあげたのは俺の足だった。
「……な、……なにっ……?!」
見れば俺の身体は樹によってソファに組み敷かれている。しかも下半身に在る違和感。それが覚醒の元凶。
樹のモノが俺の中に埋め込まれていた。
「誰がもうバテて良いなんて言った? もっと楽しもう。今度はじっくりさ」
残酷なほど綺麗な笑みを浮かべて、樹は動き出した。
「──ッひ! ……樹! いやだ、もうやめ──っああ!」
「まだまだ足りないよ」
「っぃやだ! も……むりっ……!」
眠りについてから然程時間が経っていないのかもしれない。身体には達した余韻が残っていて、俺は直ぐに樹から与えられる快感に飲み込まれた。
薄れて行く意識は突き上げの激しさに繋ぎ止められ、朦朧とする中で何度も囁やかれた。
──愛してる。
その言葉重い鎖になって、俺の体と精神を拘束するようだった。
Day End
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