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※senkoからお読みください。続編です
※作者がにわかなので矛盾点があるかもしれません
※夏油傑が離反せず高専教師している世界線




「ナマエ〜、相手してやってよー」
夏油先生に殴りかかって、その勢いのままいなされる虎杖くんを見ていると、それを笑いながら見ていたゴジョセンから衝撃の一言が発せられた。どう考えてもさっきまで怪我していた相手に言う発言じゃない。治ったからといっても流した分の血や体力が完全回復する訳じゃないんだからそのへんもうちょっと考慮してほしい。

「やだ」
「うわ即答。じゃ、やってくれたら僕の呪力ちょっとだけ貸してあげる」
「よし、かかって来い!」
うっわ、手のひらクルクルじゃーん!!とゴジョセンに爆笑されたが仕方ない。最強であり御三家であり呪力量オバケの先生の呪力は貴重なのだ。本人もそうそう貸してくれないし。貰えるものならいくらでも欲しいというのが本音。もちろんそんな事言わないけど。立ち上がってグラウンドの中央に居る彼らに近づく。

「術式教えてあげてねー」
「え、術式オッケーでやるの?」
完全に体術のみでの取っ組み合いかと思っていた。夏油先生が3人と体術のみで訓練していたから余計に。確かに夏油せんせが術式使い始めたらブザー鳴りまくるだけじゃなく被害がえげつない。
「体術だけでもいいけどさ、見たいじゃん!教え子同士のガチンコ対決!」
悪気なくあっけらかんと言われて思わずため息が出た。この人ちょっと欲望に忠実過ぎないかと一年生の肩越しに夏油せんせーを見ると、無言でにこりと微笑まれる。無言の肯定だ。この人そういうところある。本当に。
相手を強制的に決められた一年生3人は五条先生を睨むようにため息を吐いている。相変わらず学生を振り回しているのかな。

え、じゃあ説明しよっか?と彼らを見遣ると、背後に立つゴジョセンの存在は既に頭から消えたのか、興味深そうに虎杖くんが大きな目でこちらを見る。存在しないはずの尻尾が見えた気がして、一瞬目を擦る。なんだ可愛いなオイ。他の二人は冷めた目でこちらを見てくる。俺の術式への興味より適当なゴジョセンへの苛立ちが強いようだ。

「ナマエさんってどんな術式なんすか!」
「多分二人は大体知ってると思うけど、俺の術式は簡単に言えば毒と薬が作れるってやつ」
「へぇー!」
確実に分かってない顔で元気に頷く虎杖くんが可愛い。絶対何も分かってない。そんな彼を見て恵が呆れたように説明を付け足した。
「ミョウジさんの術式、特殊で呪術界じゃ有名。作った薬が出回るとすげぇ値段になる」
「え、マジ!?稼ぎ放題なん?おいくら万円?」
「……モノによっては億いくだろ」
「……え!?!?」
億ってナンエンだっけ……?と遠くを見つめる虎杖くんを釘先さんが呆れた顔で頭を叩いた。

「いってぇ!」
「あったりまえでしょ、痛くしたんだから」
「ひどくねぇ!?」

人の頭を叩いて出る音じゃない音がしたが、虎杖くんもすかさず急所は避けたらしい。全くフラつきもせずにぶーぶーと文句を言っていた。体術している時も見たが、夏油先生相手に倒されても直ぐに立ち上がっていたのをみるところ、なかなか屈強な身体の持ち主らしい。げとーせんせの蹴りは死ぬほど痛いと身をもって知っている分バケモノだなという感想しか出てこなかった。天与呪縛並みにフィジカルが強い。

それに黙って聞いていたが、薬が変に出回ってしまっても流石にそんなに高価にはならない筈だ。でも、元々渡したい人に直接渡すようにしているから滅多に出回らない。だからこその希少価値が値段を押し上げている可能性はあり得ないとは言い切れないのが悲しいところだった。いつもは先生たちが勝手に回収だか買収だかしてくれているらしいが、売り飛ばすと良い値段になると知っている人が居るからどこからか出回るってしまう。転売ヤーはブッコロ。さすがに申し訳ないからそろそろ自分で回収しようと心に決めた。出回ったら本気でヤバいものは信頼できる人にしか渡してないから、下位互換の割とどうでも良いものばかりなんだけど。

思い切り叩かれた頭を痛い痛いとさする虎杖くんは、見ている分には普通の高校生と変わらないような気がする。それどころか善人オーラがスゴい。自分が高校生だった時が捻くれていた様な気になってくる。捻くれた担任と副担任だった分、自分はマシな気がしてたのは気のせいだったのかな。

「このヒト、術式が強くて有名なんだから」
「そなんすか?」
「術式同じヤツは結構いると思うけど、使いこなせないと術式無いのと変わんないからなぁ」
俺の術式はある程度説明した方がいいだろうけど、説明しても実際に見ないと分かりづらい事も多いだろう。何が分かりやすいかな、と首を捻って考える。

「俺の術式は、さっきも言った通り薬と毒が作れる。戦い途中に作れるタイプじゃなくて事前準備派ね。もちろん何でも作れる訳じゃなくて、俺が理論を理解して、呪力が足りる状態なら作れるってワケ。だから例えば、理論上は俺も五条せんせの無下限モドキも出来る。もちろんオリジナルのが強いからゴジョセンには出来たとしても勝てないけどね」
体術も強いしあのヒト。といつの間に移動したのかグラウンドの端で腰掛けてこちらを眺めている白髪頭を見ると、__目隠しをしているから分からないがたぶん__満面の笑みでひらひらと手を振られた。それに手をふり返すと、弾ける様に笑ってものすごい勢いで手を振られた。ええ、なに事よ。横にいる夏油せんせが苦笑している。
視線を横に流すと虎杖くんも一緒に手を振っていた。ゴジョセンのテンション爆上がりの原因は彼らしい。虎杖くんめっちゃゴジョセン好きじゃん。
じっと見ていると視線を感じたのかクルッとこちらに向き直る。キラキラとした瞳に、興味津々ですと書いてあるような気がした。
「すげぇ!それめっちゃつえーじゃん!」
「でも理論を理解するってのが難しいからなぁ、俺と同じ様に薬を作れる術式持ってる呪術師は少なくないけど、扱えないのはそこが問題。ざっくり言うと頭良くないと無理ってことね。それに俺は呪力量がすげぇ多い訳じゃ無いから逆立ちしても無下限は作れません!」

砂上の楼閣、机上の空論!ニンマリ笑うと虎杖くんはへぇーと興味深げな声を出した。俺だったら無理かなぁ〜と笑っている。
理論上は可能でも現実では不可能な事が多い術式だから中々厄介なことも多い。主に上からの能力の買い被りとか。不老不死なんて理論もクソも無いモノ、作れるはずも無いのだ。作る時に呪力量だって膨大に吸い取っていきそうだし。製作中に死ぬだけで終わったら良いけど、仮に死んだ後完成してしまっていたらそれの扱いに更なる地獄が始まるだろう。
馬鹿には使えない術式って事だけれど、この自由度の高い術式とはそこで釣り合いがとれているのだろうと思う。この術式を使えない様な馬鹿の手にはとてもじゃないが責任が負えない。

「んじゃあさ、ミョウジさんなら伏黒の術式モドキも出来るってこと?」
「そうそう、でも俺の呪力量だけじゃムリ。まあ玉犬一匹5分以内とかなら出来るかもだけど」
「へぇ……」
「作んないんすか?」
「作ってもさ、そんな薬で呪霊倒せる呪術師ならそんな薬使わなくていいでしょ」
「確かに」
「言われればそうね」
「って事で実用性が無いので作りませーん。呪力と時間のムダでーす」
話は終わりだと俺がぱっと腕を広げると、足元からずずっと音がしてどろりとした呪霊が現れた。刹那、飛び退いた3人は警戒するように呪霊の動きに身構える。

「何よそれ!」「呪霊!?」

混乱している3人を無視して、グロテスクなジッパーの様になっている呪霊の腹らしき部位に腕を突っ込む。ねちょりと纏わりつく様な感覚に顔を顰めた。便利だけど中々気持ち悪いのはご遠慮願いたい。呪霊の見た目をどうにかする薬とか作れないかな。結構需要ありそう。ずるっと腹から引き出したゴツいマシンガンの様なものを構える。レボルバーのようになってる部分を回すと、カチリと軽い音がした。この銃は俺専用に作ってもらった武器だ。ずっしりとした重さを肩に乗せる。どよんと何とも言えない音がして、地面に呪霊が引っ込んでいった。

「じゃあ、実践始めまーす。一人ずつどうぞ!」
明らかに実践用の武器を構えられて、3人は思わず顔を見合わせた。初めてナマエと稽古をするからコレを出される事がどれぐらいの本気度なのかは分からないが、ふざけている訳ではない事ぐらい彼の顔を見れば分かった。明らかに重そうな銃を軽々と肩にかけているところを見るとなかなか強敵そうだ。

攻め方に悩む同級生を見て、舌打ちをした伏黒が手を構える。

「玉犬!」

鋭いこえと同時に影から現れた2匹の犬が、ナマエに躍りかかった。それを見て、ナマエはガチャリと銃を構えて腰を落とす。二手に分かれた玉犬は錯綜しながら、左右からナマエを挟む様に襲いかかった。と思った瞬間、バン、と重い音と同時に白い煙をあげて1匹の姿が消えた。何が起こったか把握しきれずに恵は表情には出さないものの動揺する。手合わせで式神を破壊する様な人ではない。なら玉犬はどうして消えた?まさか一瞬で吹き飛ばされたのかと素早く辺りを見渡しても、目に入ったのは目隠しから蒼い片目だけを覗かせてニンマリと笑う担任だけだった。
うざ、と釘崎の呟く声が聞こえて、心の中でヘドバンかというぐらい激しく頷いた。心底ウザい極まりない。

この人の術式から考えても、さっき何が起こったのかなんて検討もつかない。いや、違う。正しくは、"割と何でも起こっている可能性があるから"検討がつかない。仕方なしに1匹のみになった玉犬を手元に呼び寄せた。彼は基本、銃を扱う中距離型だ。薬と毒をその銃から打つ戦い方をする。それらの届く範囲には、できる限り近づきたくは無い。しかし、遠距離では埒があかない。こちらの術式を知られている以上、長期戦にはしたくなかった。つまり、短距離戦に持ち込めば、僅かにでも勝率が上がる。そう判断した瞬間、恵は地面を抉る様に蹴り上げた。驚いた様に僅かに目を見開いた彼に、勝機を掴んだと思った。玉犬も先陣を切って彼に飛び込んで行く。すかさず空中に振り上げた手を組む。

「鵺!!」
ばさりと現れた鵺に、ほんの一瞬、ナマエの意識が向いた。彼の意識が逸れたその一瞬に恵は彼に向けて全力で脚を回して___気がついた時には視界にいっぱいの空が広がっていた。は、と息を吐き出す。この人と戦う度に、何が起こったのか分からない事で生まれる恐怖を一瞬で嫌になるほど味わう羽目になる。そういえば、この人は昔もそうだったなとこの底知れぬ恐怖を今になってやっと思い出した。くるっと身体を回して立ち上がると、銃を肩にかけた彼は余裕ある表情でにやりと笑う。鵺が恵の横にばさりと音を立てて着地をした。陽動の役割はきちんと果たしてくれたようで、彼は物珍しそうに鵺を見つめていた。

「それ、俺見たことなくない?」
「そうかもしれません」
「ぬえ?」
「鵺です」
へぇ、かわいいなと鵺を舐め回す様に眺められる。どこか気恥ずかしさを感じて鵺をしまうと、不服そうに眉を顰められた。やっぱりこの人はどこか五条に似ている。ちらりと背後を見遣ると、にまにまと笑う目隠しが視界に入って、恵は咄嗟に目を逸らした。

「ちな、玉犬の白、見えなくしただけだから多分その辺にいるよ」
え、と声を漏らすと、スプレーに入った無色の薬らしきものを軽くしゃかしゃかと振り、霧吹き状にして辺りに撒き散らすように吹きかける。するとみるみるうちに現れた白がどこか不満げに恵の側に現れた。恵が撤退を指示したから戻ってきただけで、あのまま攻撃していたら攻撃は有効だったのかもしれなかった事に気付かされる。恵の行動の先を読まれているかの様な攻撃性のない薬を使われて、結果的に負けた。おちょくられている訳ではないと分かっていても釈然としない負け方だった。僅かに顔を顰める恵に、ナマエはけらけらと笑った。

「俺、恵に会うの久しぶりでなんか嬉しいわ」
「……お久しぶりです」
「式神使いなのに突っ込んでくんのビックリするけどいいよな、それ。強くなったしゴジョセンも殴れんじゃね?」
「それはまだ無理です」
「"まだ"なんだ」
けらけらと笑うナマエが、ヤる時は手伝うから!とサムズアップする。恵はそれに深く頷いた。

senkou 2

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