安心安全

「終わった」
ダラダラと汗を垂らしながら陣平が部屋に戻ってきた。適当なタオルを投げつけて、氷のたっぷり入ったコーヒーを机に置く。コーヒーを直ぐに飲もうとした弟に、先に手を洗えと言うと、不満げな顔で洗面所に向かった。
「さっすが兄ちゃん!」
「うるせぇ」
からかってきた萩に足蹴りをかました。

「お前らいつまでいんの」
そういや聞いてなかったと聞くと、終末いっぱいですから明日明後日ですねと返された。

「マジか」
「えっ、なんかまずいですか?」
申し訳なさそうに眉を下げた諸伏に、そういう事じゃねぇけど。というと萩が小指を立てた。
「もしかして、コレ?」
「ジジクセェ」
近くに置いてあったティッシュ箱で頭を叩いた。

嫌な予感に顔をしかめつつ、冷蔵庫を開けて、すっからかんな中身に前髪を掻きむしった。実家だから調味料なんかは揃っているが、男6人分の食料には程遠かった。ザッと考えただけで、買い出しの量と金額が大変なことになるのは明白だった。


後ろから覗いてきた諸伏が眉を潜めた。
「…これは大変だ」
「本当にな」
そう返すしか無かった。


「まず、料理できるやついるか?指示がなくても料理できるヤツな」
ソファ周辺に集まった全員の顔を眺めつつ、質問をする。ただごとではない雰囲気にグダっていた萩が姿勢を正した。
「はい」「俺も」
諸伏と降谷が手をあげる。弟と萩、伊達に目を向けると、指示があればできるが難しいものは出来ないと返された。

「じゃ、買い出し行くぞ」
フックに掛かっていた車のキーを手に取って、リングを指に引っ掛けてクルクルと回す。へいへいとめんどくさそうに返事をして、空のコップを置いた弟はどうにでもなれと言いたげな顔をしていた。


「ってか、全員乗れなくないっすか?」
「そこは詰まれよ」
「いや、俺ら警察官目指してるから!」
車に向かっていると後ろから声をかけられる。めんどくせぇなぁ、と振り向くと、萩と目があった。瞬間名案が浮かんで、口角を上げる。

「お前、家近いんだからお前も運転しろ」
半分ぐらい乗せてけ。車に乗り込みながらいうとゲッという顔をした後、盛大なため息を吐いて、はーいと返事をした。不貞腐れたようにゆっくりとUターンをして門に向かって行く。

「乗りたい奴乗れ」
エンジンをかけて、エアコンをつける。すぐ吹き出してきた生温い風が気持ち悪かった。

「安全ですか?」
「あっちより安心安全」
オレこっち乗るわ。すぐ聞こえてきた声に額をハンドルに押しつけて笑いを噛み殺した。
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