※家族パロ





歌が聴こえる。
優しい優しい愛の唄。

そういえば彼女は昔から歌が上手かったっけ。そんなことを思いながら、短い廊下を彼は進む。近付くにつれ大きくなる歌声。良く聴けばその歌は子守唄だった。
辿り着いた扉を開けると、歌声は止んでしまった。代わりに、部屋のソファに腰掛けていた女性がこちらに気付いて微笑んだ。


「おかえりなさい、シグマくん」


彼女の腕に抱かれ、寝息をたてる小さな命。朝見た時と変わりない妻と息子を見て安堵し、Σもまた表情を和らげる。


「只今戻りました、ヒサさん」


とある有名探検隊の長を勤めていた彼女は、今や一児の母となった。
探検隊が解散してしまった後も探検自体は個人で続けているが、現在は育児休業中だ。

「せっかくパパが帰って来たのにごめんね。今寝ちゃったとこなんだ」
「いいんですよ。ゆっくり寝かせてあげて下さい」

Σはそう言って隣に座り、ヒサの腕の中で気持ち良さそうに眠る息子の頬を優しくつついてやる。一瞬身動いだが、またすぐに規則正しい寝息が聞こえた。

幸せ、だった。
我が子を抱いて微笑むヒサ。その隣に寄り添うΣ。この何気ない、普通で、平和な日常が。
普通とは言い難い日々を過ごしてきた二人にとって、たったそれだけのことが、とても、とても。
Σにもヒサにも、辛い『過去』がある。お互いの全てを知り、受け入れ、やっと掴んだもの。それが今だ。


「…私ね、幸せだよ」


実感する度、彼女は口にする。確認するように。幸せだと、だからこそ失いたくないのだと。
「大丈夫」と抱き締めてくれる彼を信じて。


「貴女の『嘘』は、絶対に見逃さない。たとえそれがどんなに小さなことでも、です」


『失わない』為に、ヒサが過去に何をしてきたか、Σは知っている。それが報われず終わったことも、彼女が負った深い傷痕も、全て。

失いたくない。束縛にも似たそれは、時に自分の命さえも天秤にかけてしまう。
しかし今の彼女には、それを止めてくれるひとがいる。吐き馴れた『嘘』に気付くひとがいる。
そして何より、彼女には一生をかけて守らねばならない命がある。
自己犠牲など、所詮はエゴでしかない。



「貴女は、俺が守ります」



そんなエゴも、不安も、恐怖も、全部引っくるめて自分が守ってやればいい。そう決意した上で、自分は彼女の傍にいることを選んだのだ。二度と彼女独りを傷付けさせはしない。彼女の独り善がりを許してはいけない。
その堅い意思とは反対に、Σは息子ごと抱き締めたヒサの髪を、そっと優しく撫でた。



「……うん…っ!」


ヒサは縋るようにΣの頬に擦り寄り、頷く。

Σは彼女の笑顔を一生守ると言った。
すると彼女は笑って、なら自分はΣを一生笑わせてあげると言った。

彼女が笑う。笑顔を向けてくれる。それを見て嬉しくなって、自分も笑う。
そんな些細なことに触れる度、心の底から思うのだ。



自分達は今、とても幸せだと。






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(ローリンガールの終着点)



「もし俺に隠れて無茶したら、お仕置きですからね」
「やん、シグマくんのえっちー」
「そういう意味じゃありませんッ!!ヒサさんの部屋にある薄い本、全て処分させて頂きますから!」
「いやーっ!それだけは勘弁してっ!」


その後必死に縋るヒサの声で息子がぐずり出してしまいのは、また別の話。






ヒサ/ゼニガメ♀
Σくん/メタグロス♂寄り(背景、)




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