短編 | ナノ



「はあ…」


昨日貰った連絡先に、お礼のメッセージを送ったのに返事がない。

いや、もしかして宛先間違えてる?と何度も彼の手書き文字と見比べてみるけど、あってる。何度見てもあってる。


「あー無視かなあ」


連絡先渡してきたのはそっちでしょうが!気になって授業に集中できない!

こんなことなら送るんじゃなかった、なんて。自惚れた私が一番悪い。返事なんて来ないって分かってるのに、チラチラとスマホを見てしまう。チクショウ!なんか悔しい!


「ハア…」


そんなこんなであっという間に今日の授業は終わった。一生懸命、講義してくれた先生には申し訳ないけど、今日教わったこと、一切身になってない。自業自得だ。


「あっ!」


自転車を走らせて駅に到着。

バス停に着いたあたりで、今日一日音沙汰なしだったスマホが振動した。


「返事、来た…!」


さっきまでのモヤモヤした怒りや悲しみはどこへやら。

月島蛍、その文字を見ただけで心臓がドクンと音を立てる。チクショウ。悔しいけど、すっごく嬉しい。


"こちらこそ、ありがとう。
良かったら、今度ゆっくり会いませんか"


「わあ…」


たった2行のこの返事に、とにかく私の心は踊った。

なんて返事をしようか。すぐ返事したらがっついてると思われるかな。ちょっと時間置いた方が良いとか、って。


「なるほど」


こういうことか。

返事するって難しい。今なら、月島くんが半日かかった理由が分かる。私と同じ理由ではないかもしれないけど。

でも、月島くんに私と同じ思いをさせるわけにはいかない!早く返事を返さなきゃ!



−−−−−−−−−−



「ツッキーもしかしてまだ返事してないの?」

「…今送ろうとしてたところ」


と言いながらも、すでに半日こうしてる。

彼女から送られて来た、パスケースありがとう、というお礼にどう上手く返事をしたらいいのか悩んでいたらもう夕方だ。


「今度、遊ぼうとか言えばいいのに」

「ハア?無理デショ」

「分かんないよ?その子も意外とノリ気かも」


その証拠に連絡くれたわけだし、と山口が僕の背中を押す。


「…送った」

「ツッキー凄い!」

「疲れた」


本当にドッと疲れた。気になる子に返事するだけでこんな体力使うもんなんだ。

そんなことより、こんな踏み込んだ返事をしといて、スルーされたら立ち直れない気がする。どうしよ。やっぱ送らなきゃ良かった。


「…あ」

「ん?」

「返事来た」


"喜んで!いつにしますか?"


このたった一言で、勇気出して良かったって思えるんだから凄い。恋愛って一種の麻薬だ。

気付けば、僕の手はスラスラと返事を打ち込んでる。今週の土曜日は空いてる?なんて、さっきまでの足踏みしてた自分が嘘みたい。


「土曜日会うことになった」

「早っ」


やっぱり彼女もその気なんじゃない?と山口が嬉しそうに言うもんだから、さあね、といつものように素っ気なく言う。

正直なところ、僕だって少し嬉しい。良かった、ちゃんと返事して。



−−−−−−−−−−



「…はあ」


緊張する。見慣れた駅の景色も違ったものに見えてくる。

いや仕方ないって。私、男の子と2人っきりで遊ぶの初めてだもん。

ああ、どうしよ。服装変じゃないかなあ。いつも通りのこんな動きやすさ重視の服じゃなくてちゃんと可愛いの着てくるんだった。

ほらこのディスプレイに飾ってあるワンピースとか良いじゃん。このセットアップも可愛いしオシャレで。こういう時って新しい服とか買うもんだよね失敗した。


「あ、つ、月島くん!」

「ごめん、待った?」


うわ、なにこれ。少女漫画で見たことあるシュチュエーションじゃん。やってみたかったやつ。夢叶った。


「私も、今来たところ、だから」

「そっか」

「うん」


おっと、びっくりするくらい会話が続かない!どうしよう!なんか話さなきゃ!てかこれから何するとかも決めてないし!


「映画、好き?」

「…え?映画?」

「僕、観たいのがあって」

「え!うん!映画好きだよ!」


お供します、と頭を下げれば、お願いします、と彼はクスッと笑った。


「あ、そうだ!月島くん、パスケースありがとう!オシャレで気に入ってる」

「それなら良かった」


映画館まで向かう途中、パスケースがちょうど壊れて買おうと思ってた話とか、これから見る映画の話とか、お昼何食べるか、なんて、なんだかんだで会話は弾んだ。

月島くんが聞き上手だから私がベラベラ喋っちゃうだけなんだけど。


「まさかバッドエンドだとは…」

「君、泣いてたよね」

「あれは泣くでしょ…」


映画は良い。一緒に居ても、気使って話さなくても良いし、終わった後の会話に事欠かないから。

結局、ふらっと入ったカフェでひと息。熱めのカフェオレが、映画によって傷心した心に染み渡る。


「…ん?なに?」


目の前に座る彼は、じーっと私を見てる。

え、なに、怖い。なんか顔に付いてる?というか映画見て泣いて目が赤くなってるかも。恥ずかしい。見ないで!


「僕さ、」

「え、あ、はい」

「君が好き」

「…え?」


にこり、と恥ずかしげもなく言うワード。こんなの、少女漫画でも見たことないんだけど。



一喜一憂



(201120)

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