短編 | ナノ



「うーん…」


イマドキの男の子が、どんなものが好きなのか、どんなものをプレゼントしたら喜んでくれるのか、こんな真剣に悩む日が来るなんて思わなかった。


「君って、本当、可愛いよね」

「え!?なに!」

「僕の誕生日プレゼント選んでるんデショ」


バレた。せっかく秘密裏に動いてたのに、なんでこんなタイミングよくバッタリ出くわしてしまうのか。世間は狭いとはよく言ったもんだ。


「つ、月島くん…」


彼は、友人の紹介で知り合った月島くん。

背が高くて、イケメンで、たまに見せる笑顔が可愛くて、よく私を褒めてくれる素敵な男性だ。


「仕事終わり?」

「うん!月島くんこそ」

「君がちょうど入っていくところが見えたから、ついてきちゃった」

「本当、タイミング!」


まあでもこのまま、ひとりで選んでても決めきれないところだった。欲しいものは本人に聞くのが一番だし、あとで聞いてみようか。


「月島くん、これからご飯行かない?」

「僕もちょうど誘おうって思ってたところ」

「今日こそ、私がご馳走するね」

「そんなのダメ」


じゃあ行こうか、なんて当たり前に私の手を引く。

月島くんと一緒にいると、男友達ってこんな距離感だっけ?と頭が錯覚を起こしてしまう。繋がれた手が熱い。


「乗って」

「ありがとう。いつもごめんね」


徒歩通勤の私と、車通勤の月島くん。

通勤路が同じだから、当然、こうしてバッタリ出会うと声をかけてくれて、いつも乗せてもらってはご飯までご馳走してもらってる。

申し訳ないなあ、と思いながらも断らない私も満更じゃないんだって自覚してるし、きっとそのことに月島くんも気付いてるんだろう。


「ごめんね、って言うの禁止したはずですケド」

「だって、私ばっかり良くしてもらって申し訳ないんだもん!」

「僕が良いって言ってるんだから良いんだって」

「このままじゃ、甘やかされすぎて堕落してしまう…」

「僕は君を甘やかすのが今は一番楽しい」


月島くんは、そうイタズラに笑う。

車で送ってくれるだけじゃなくて、外食では必ずご馳走してくれるし、アパートに遊びに行けば手料理が出てくる。極めつけは、明日のおやつに食べて、と話題のお菓子を取り寄せては私に与えてくる。なにこの天国。


「今日、何食べたい?」

「あ!そこの!牛丼で!」

「遠慮すると怒るよ」


ご馳走になるにしても、せめて負担が少ないであろう安くて美味しいファストフードの牛丼屋を指差すと、そんなの嫌だと言わんばかりの返答。


「本当は何がいいの?」

「こ、この前、行ったイタリアンの…」

「気に入ってくれたんだ」

「ティラミスが食べたい!」

「分かった」


彼は満足気にハンドルを切る。

お店に入っても、海外映画のヒロインみたいに私をエスコートしてくれるからちょっとしたお姫様気分。


「月島くん、欲しいものある?」

「直球だね」

「私に隠し事なんて無理だった」


欲しいものか、と彼は眼鏡を上げて頬杖をつく。

月島くんは、少し悩んでいる様子。私なんて欲しいものたくさんあるから、ポンポン言えるけどなあ、なんて思いながら彼の考えてる顔を眺める。


「せっかくのお誕生日なんだから、なんでも言ってよ!」

「なんでも?」

「私が買えそうなものにしてね」

「買えるものなら自分で買うよ」

「え、じゃあダメじゃん!」


シェアするサイズのパスタが届いて、私が取り分けようとする前に、トングを取られて、サッと取り分けてくれた。私だって女子力アピりたいのに今日も負けた。


「そうだ、せっかくの誕生日だし」

「うん」

「僕のお願い聞いてほしいんだけど」

「うん!良いよ!」


ご馳走でも、少し高価な物でもどんとこい!覚悟は出来てる!

パスタを巻く手を止めて、何がいい?と聞けば、彼はニコリと微笑んだ。


「僕たち、付き合う?」

「…え?」

「なんてどうかな」

「え、え?なに?」


あまりにサラッと言うもんだから思わず聞き返してしまった。


「君と付き合いたいなあって」

「え!待って!?そんなんでいいの!?」

「そんなんって失礼だね」

「だって!だって、月島くんにメリットなくない!?」

「恋愛はメリットデメリットとかじゃないデショ」

「そ、そうかも、しれないけど…」


驚きすぎて持っていたフォークがカランと音を立てる。


「これ僕が今一番望んでることだけど?」

「え、ええ…」

「どうかな」


そんなの、答えは決まってる。


「お、お願い、します」

「本当に?」


良かった、と安堵して彼はパスタをクルクルと巻いて口に入れる。


「じゃあ、彼女サン。誕生日は僕とデートしてね」

「もちろんだよ!」

「ティラミス頼もうか」

「うん!」


ねえ、誕生日のデートはどこに行く?

月島くんに喜んでもらえるように、私だって頑張るんだから。



君に溺れた



(200927)
Happy Birthday ツッキー!

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