短編 | ナノ



「え、もしかして髪切ったん…?」

「うん、よく気付いたね」

「当たり前やん!かわええ!」


週明けの今日もド正面からぶつかってくる宮治に、褒められたドキドキとヒヤヒヤで私の心臓は今にも誤作動を起こしそう。

昨日、少し伸びていた髪を切った。元々、部活のために短くしていた髪に切るところなんて限られていて、襟足と前髪を少し切った。


「前髪、ええ感じやね」

「そ、そう?」


ちょっとした変化も見逃したないねん、と今日も頬杖ついて私を見てる。


「なあ、今日は一緒に帰れる?」

「無理やな。毎日、友達と帰るもん」

「えー、ほな電話したいんやけど」

「長なるからメッセージにして」

「味気ないやん。声聞きたい」

「10分だけやで」

「おん!」


楽しみやわあ、と緩みきった顔する宮。最近は慣れてうまく受け流してる私。

毎日こんなやりとりを見ているだろう同級生たちはもう何も言わなくなった。

私も周りを見渡せば、怯えてばかりだったけど、そんなに私のこと気にしてる人なんておらん。

ほら、休憩時間やって、私に話しかけるだけやなくて宮も上手いこと、ちゃんと男女分け隔てなく話しとるし。その調子で私のことは放っておいてほしい。


「治くん、今日一緒に帰ろ」

「んー、今日遅なるしなあ。危ないからはよ帰り」


分かったあ、と残念そうな声を出す女子。明らかに、宮に気があるだろう女子とのそんな会話が聞こえてしまう。

自分さっき私のことは誘っとったやん。遅くなるんなら私のことも誘わんといてほしい。


「今日遅いん?」

「いや、いつも通りやと思う」

「え、なんであの子にあんなこと言うたん?一緒に帰ったらええのに」

「優しい嘘やん」

「モテ男はこれだから…」


惚れてもええで?なんて、ふざけた顔して。


「無理、とか言うたら可哀想やろ?」

「私への当て付けですかあ?」

「ちゃうし!」

「はいはい」


分かりやすく慌てる宮がおもろくて、クスッと笑ってしまう。

確かに、誰も傷つかない優しい嘘や。すごいなあ。そういうところは尊敬するわ。


「ま、俺は一緒に帰れるまで誘い続けるけどな」


電話した時に何話そかな、なんて緩みきった笑顔を私に向ける。



−−−−−−−−−−



「また明日なー」


部活終わり。

いつも一緒に帰ってる友達はもう少し残るっていうから、仕方なく先に帰ることに。

彼女がもう少し残る理由。

それは同じ部活の先輩と一緒に帰りたいからやと思う。本人から聞いてはないけど、薄々気付いとった。先輩が好きなんや、て。

そうかあ、みんなちゃんと恋してんねんなあ。すごいわ。羨ましい。


「…ひとりか」


そして寂しい。

なるほど、こういうことか。みんな口を揃えて、彼氏欲しいだとか言うのにはこういう時の依代を探していたってことか。もっと早く教えてくれよ。


「え、もしかして、今日、ひとりなん?」

「あ、宮…」


部室近くで、驚いた顔したかと思えば嬉しそうに笑う宮と遭遇。


「これって、チャンスやない!?」

「あー、かもね」

「なあ!一緒に帰ろ!今、荷物持ってくるとこやねん!待っとって!」

「おん、ええで」

「ほんまに!?待っとって!すぐ戻るから!」


絶対そこ動かんといて!と、響き渡るデカい声。おもろい。隠れたりしとったらどんな反応するんやろ。


「自分、今何考えとる?」

「わ、早っ」

「逃げられたら敵わんからな」


お待たせと呼吸ひとつ乱さずに現れた。


「隠れたらどんな反応するんやろって考えてた」


クスクスと笑って、ほな帰ろ、と歩き出せば、その場に立ち止まったままの宮。

不思議に思って彼の方を見れば、両手で顔を覆って、あかん、とか言うとる。


「そんなかわええこと考えてたん?」


好きすぎる、と恥ずかしげもなくそんなことを言う宮にこっちが恥ずかしくなる。


「今日、嬉しすぎて寝れるか心配」

「大丈夫やって。はよ帰ろ」

「やって、今日電話もしてくれるんやろ?」

「10分だけな」

「話すこともう決めてんねん!」


彼は私の隣に並んで、初めて一緒に帰れるなあ、と嬉しそうに言う。私も寂しかったから、まあ、今日はええかな、と満更でもない。


「今日なんで、ひとりなん?友達は?」

「あー、先輩のこと待ってるんやって」

「へえー」

「ひとりで帰るん寂しかったから宮がおって良かったわ」

「そんな嬉しいこと言うてくれるん」

「たまにはね」


私だって、最近は宮といると楽しいと思ったりしとる、正直。

駅までの歩き慣れた帰路も、いつも友達と帰っとるから、宮がおらんかったら暗い道路は心細かった。というか助かった。


「また一緒に帰ってくれる?」

「んー、気が向いたら」

「友達と先輩、うまく行くとええな」

「そやね」

「そしたら俺も自分と帰れるし」

「そっちが本命やろ」

「バレたか」


初めて一緒に帰ったから、今気付いた。

彼はこの駅を利用しないらしい。

彼は学校近くから出ているバスで通学している。私と駅まで歩いて、また学校近くのバス停まで戻るなんて、毎日ハードな部活で疲れてるだろうに、寂しいと言う私をわざわざ送ってくれたのか、と申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが、私の心を揺らした。

臆病者の私は、宮のその優しさに、気付かないフリをした。



(200505)
13th Anniversary

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