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教えられた通りに六人揃って頑張る様は、大変可愛らしく微笑ましい。
紙に書かれた詠唱文をぶつぶつと口の中で唱え覚えながら、霊圧を練っていくのだが、ある程度両親の力というものも関係してしまうのだろうか、京楽家の三つ子の方がコツを掴むのが上手のようであった。
「あっ」
笑顔で声を上げたのは、六人の中で一番下の夏七であった。
「はい、はいっ、できたかもっ」
手を挙げて嬉しそうにはしゃぐ。
「じゃあ、実際にやってみましょうね。あの人形に向かってやってごらんなさい」
七緒は娘の隣に座って視線を合わせ、促す。練習用の人形を指し示す。
「はいっ、かかさま」
ぶつぶつと口の中で詠唱し、詠唱を終えると教えられた指の形をとり構える。
「ばくどうの一、さいっ」
指の先から光が放たれ人形に向かう。人形に光が当たると人形が転がった。
「おしいなぁ…どうも…。後少しかな?」
春水が自分の足元に転がってきた人形を手に取り、霊圧を読み取る。
「え〜?ダメなのぉ?」
「うん、お人形さんの手足がそのままだよねぇ?塞は縛られたようになるからね?」
春水が人形に指先で触れると、娘の残っていた霊圧を調整でもしたのだろうか。人形の手足が動き縛られたかのような形に変わった。
「あっ、ほんとうだ」
「夏七ちゃんはここまでできたから、後はこの形をイメージしてごらん?」
「はいっ」
夏七は嬉しそうに頷き人形を手渡されると、母の元へと駆け寄って座り込んで再び練習に取り組んだ。
さて、子供というものは負けん気が大変強く、さらに兄弟姉妹などで競っているとより発揮されることがある。
子供たちは俄然張り切った。
次々と手を挙げては挑戦を繰り返す中、一人いつまで経っても手を挙げて挑戦出来ないものがいた。
左陣と三夏の長男の西治である。
「う〜…」
唸り歯を食いしばりながら、眉間に皺を寄せ懸命に霊圧を練ろうとしているのだが、後少しという所で霧散してしまうのだ。言霊に霊圧を乗せられず上手くいかない。
それでも姉弟ができるのならば自分も絶対にできるはずだと、諦めず繰り返し頑張っている。
三夏はそんな息子の様子を見守っていた。手を貸したくて腰が浮きかけてしまうが、春水にちらりと視線で止められてしょんぼりとうつむき腰を下ろす。
「西治君、こっちおいで」
春水に呼ばれはじかれたように顔をあげ、祖父を見る。
「…じいじ…」
「おいで?」
「……」
怒られるのだろうかとしょんぼりとうつむき耳を伏せ、春水の元へととぼとぼと歩き寄ってくる。
「…じいじ…」
「ほら、ここに座って」
春水は自分の膝を叩いて膝の上に乗るように促す。
「ん」
西治が膝の上に座ると、小さな手を取る。
「西治君はお父さんに似たのかな?」
「ととさまに?」
「ん。左陣君は鬼道使えないからねぇ?」
「…ととさまはぜんぜんなの?」
「全然使えないねぇ…けれど、力は強いよ」
小さな手をいじりながら春水は孫に語りかける。
「…でも、南槻も西造も使えるのに…」
しょんぼりと呟く声に力がない。耳までもが項垂れていて、春水はその愛らしさに目を細めた。
「う〜ん…左陣君に似ているのは嫌かい?」
「ううん。ととさまににてるの好きっ」
ふるふると小さく首を振る。
「じゃあ、今度は剣道やってみようか?ひょっとしたら西治君はそっちが得意かもしれないよ?」
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