「まさかと思うが、この男、お前の一族と言うだけでなく、十二番隊隊員?」
「……そうだとありがたいねぇ、色々と話が早く済むよ」
 十二番隊隊員であれば、十二番隊隊長へ話を通せば済むからだ。先程勝手に十二番隊をこき使ってしまったが、これも話が早くて済む。
 実家の方へも十二番隊へと任せる旨を伝えれば、異論があっても隊長二人を相手にする気は失せるだろう。卍解を使わず済んだので、総隊長にもお小言で済むと思われる。

「って、言うか、なんであたしに知らせへんのや!」
 春水がぼやき、気を抜いた隙を狙い、本で勢いよくお尻を叩かれた。
「いったーい!ちょっと、リサちゃんなんでいるのさ」
「拳西が八番隊が騒がしい言うて、知らせてくれたんや。八番隊で情報もろて来たら、途中であんたの簪も落ちてるし!」
 かつての八番隊副隊長である矢胴丸リサが、眦を釣り上げて怒っていた。七緒の危機に自分が無視されたことが腹立たしくてならない。

「リサさん、わざわざきて下さったのですか」
「大丈夫か?七緒」
「はい。怪我ひとつしておりません。ご心配おかけして申し訳ありません」
 七緒が恐縮して頭を下げる。リサは今でも現世に居る為、わざわざ瀞霊廷まで来てくれたことに頭が自然に下がるのだ。
「ええんや。そこで立ち聞きしとったけど、こいつの後始末がお粗末だったことが原因なんやろ」
 リサが堂々と立ち聞きしていたことを明かし、更には春水をこいつ呼ばわりして攻め立てている。
 十四郎はリサの変わり内様子に苦笑いを浮かべて見守り、ルキアは唖然として見守るばかりだ。
 リサは拳を突き出すようにして簪を春水に渡すと、七緒に向き直る。

「七緒、考え直し?今ならまだ間に合うで?」
「ふふ、そうですねぇ」
「七緒ちゃん!!そんな!やっともう少しで結婚式なのに!リサちゃん余計なこと言わないでよ!」
 リサの言葉に七緒が笑みを浮かべて頷き、春水が慌てて七緒を抱き寄せる。

 賑やかにはしゃぐ様子をみて、隙と勘違いした男が逃げようと試みる。
「……」
 リサは黙って指を弾いた。
 途端に男と女の居る周りに霊圧の結界が張り巡らされた。
「喜助からもろて来たんや。これを破るにはこっちの道具が必要になる」
 リサは春水に道具を渡すと、七緒を奪い抱き寄せた。
「じゃ、後始末きちっとしてから迎えに来な。それまで七緒はあたしが預かっとく」
 そう言い残すと、リサは七緒を連れて出て行ってしまった。

「うわああああ、美味しいところ全部リサちゃんに持って行かれたーーー!!!」
 春水が頭を抱えて喚く。
「……まあ、実際に後始末をしないといけないからな。それまで伊勢君の相手をしてくれているんだと思えば」
「そんな正論、嬉しくない!!浮竹!手伝ってくれるよね?」
 春水ががっちりと十四郎の胸元を掴み、逃がすまいと詰め寄る。
「うう……」
 うっかりリサを見送ってしまった為に、貧乏くじを引くことになってしまった十四郎はお人よしと言うべきか。
 ルキアは苦笑いを浮かべて肩を竦ませた。


 その後、春水は実に機敏に動いた。
 女は元々働いていた見世へと引き渡し、山本総隊長へ報告して説教され、十二番隊へと男を引き渡しマユリの小言を聞き流すと、急いで隊首室へと戻って来た。

「七緒ちゃん!お待たせ!!」
 春水が勢いよく扉を開け放ち入ってくる。
「お帰りなさい。京楽隊長」
 七緒は優しい笑顔で出迎えた。そっと両手を差し伸べて。

「ただいま、七緒ちゃん」
 差し伸べられた両手はそっと広げられていて、抱きしめて欲しいと訴えているように見えたので、春水はそっと七緒を抱き寄せて耳元で穏やかな声で返した。


 ささやかな、当たり前のやり取りに二人は安堵の笑みを浮かべて、見合ったのでした。






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