「京楽様、私はあなたの妻になる為に……」
「あのさぁ、君どこ見世の娘?覚えがないんだけれど……」
 真剣な眼差しで見下ろし問われ、女は目を見張った。
「ボクが花街遊びを止めて、かれこれ二百年は経ってるんだけれど……?何時、会った娘かな?」

 春水が女へ話しかけながら、何気なく影に刀を突き刺す。
 すると男の影から刀が出てきて、懐を切り裂いた。
「あわわわ」
 無論充分過ぎるほどの手加減具合だ。
 男が逃げる素振りをした為にちょっと脅かしたに過ぎない。
「ねぇ、逃げる前に教えてよ。君、誰?」
「京楽、それくらいにしておけ。もうおびえきっているじゃないか」
「浮竹、それは面白くない冗談だよ。おびえてるから何?ボクの七緒ちゃんを攫っておいて、これくらいで済むと思わせないでよ」
 十四郎が呆れた表情で入り口に立ちはだかり、男が逃げないよう気を付けながらも、男のおびえた様子に思わず口を出してしまった。
 だが、春水がそれを良しとしないのも当然だろう。
 身長の高い二人が立ちはだかる横をルキアが通り抜け、七緒に手を貸す。

「立てますか?伊勢副隊長」
「ええ…ありがとう。朽木副隊長。……眼鏡がないんですけれど、近くにあります?」
 眼鏡が無い上に暗いので、七緒にとっては探しにくい状況なのだ。
「眼鏡ですか?ええと……あ、あった!ありました。どうぞ」
 ルキアが床に置かれていた眼鏡を取り差し出すと、七緒は受け取り眼鏡を掛けて辺りを見渡した。
「京楽隊長」
 七緒がそっと立ち上がり側に寄る。
「七緒ちゃん…怪我はなさそう?」
「……京楽隊長こそ…どれだけ無茶をなさったんですか?」
 七緒が手を伸ばして髪に挿してある風車の簪を抜き取る。
「ん?」
「一本しかありませんよ」
「あれ?何時の間に落としちゃったかな」
「ご免なさい」
「何言ってんの……どう見たって、ボクの不始末の方でしょうが」
 七緒の謝罪の言葉に春水が苦笑いを浮かべる。
「ボクには見覚えないんだけれど、どうやら一族らしいしね」
「そうなのですか?」
 七緒は眼鏡を持ち上げ、二人を見る。
「……一族はともかくとして、なんだか回りくどくて今までとは違うように思うのですが」
「どういうこと?」
「私を脅すにしても、危機感を感じないといいますか。彼女の方は少し切迫している感じはしたのですが……」
 七緒の説明に、春水も十四郎もルキアも首を傾げた。

「最初は、確かに私と京楽隊長を別れさせる目的もあったかもしれませんが、情が移ったような?」
 男の態度の弱さに七緒はそう推理したのだ。
「…………うん、もういいや」
「ああ、そうだな…」
 春水は憐みの眼差しで男を見下ろしながら刀を戻し、刀を納めた。十四郎も首を軽く振り、これだけの騒ぎの発端が、大したものではなかったと溜息を吐きだす。

「あ、そうだ。山本総隊長にちゃんと報告に行けよ」
「うわああ、最悪。こんだけ騒いで、山じいに怒られるのボクだけ!?」
「そう言う事だ」
「なんか理不尽だ!」
 頭を抱えて喚く春水に、七緒が申し訳なさそうに縋る。
「私も一緒にお詫びに伺いますから…」
「……まあ、七緒ちゃんが無事だったから良いか……」
 瞳を潤ませて詫びる七緒の姿に、春水はあっさりと絆された。

「あ、お二人にもまだお礼もお詫びも言わず失礼しました。お騒がせしまして申し訳ありません」
「いやいや、さっき京楽も言っただろう?君の所為じゃないから」
「そうですよ。実際に念入りにされていましたから、仕方がないです」
 十四郎やルキアが、恐縮する七緒を宥めるように返す。
「……そうなんですよねぇ…まさか霊圧を消す布とか持ってるとは思わなくて」
「……あれ?それって浦原の……」
「ああ、朽木さんはそのあたり詳しいんでしたっけ……でも、あれほど精巧な感じしませんでした。廉価版って感じで、あれって、今十二番隊で開発とかされてましたっけ?私そのような報告は見て居ないのですが」
 昔浦原喜助の作成したもので、事件に係わった物については一部隊長や副隊長に知らされていた。
 また、そうした研究成果が商品化される場合、女性死神協会が女性も使いやすいようにと口を挟むことがあるので、副会長である七緒はネムから情報を得ているのだ。
 七緒の指摘に、春水と十四郎は顔を見合わせ、男を見た。



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