隊長達の力量を嫌と言うほど側で見ているルキアとしては、何故に彼らに喧嘩を売るのかがさっぱり理解できない。
 義兄である朽木家当主である白哉に、このような事態が降りかかる所を見たことがない。否、ルキアが気が付く前に、白哉が秘密裏に片づけているのだが、それこそ当主であればこそだろう。


 その頃、七緒はふと目が覚めた。
 目が覚め思考が戻ってくるのにいささか時間を要することになったのは、まず眼鏡がなくて周りの状況が見えないことと、辺りが暗闇に包まれていて我が身に起こった出来事を瞬時に理解ができなかった為である。
 今日の日付を思い出し、部屋を出て春水と待ち合わせに出かけた所まで思い出した時だった。
 細い光が差し込み、再び暗闇に包まれた。
 音からして、襖を開けて閉めたのだと判断する。と、なると、ここは何処かの室内ということだろう。雨戸でも閉めているのか、外の音は聞こえないし、やけに暗い。
「目が、覚めたようですね」
 艶やかな女性の声が聞こえた。
 七緒は驚きに軽く目を見張った。
 さらわれた状況を思い出しつつあったところだったので、てっきり春水と自分との結婚の気に入らない親族だと思ったのだ。だとしたら、男性の声であろうと思っただけにやけに艶やかな声で驚いたのだ。

「京楽様の、女。はっ、こんな女が」
 嫉妬交じりの苦々しい声音に、七緒は眉間に皺を寄せた。
 婚約を決めた頃には既に春水は女性との関係を断ち切った筈だったからだ。
 なぜに七緒が知っているかと言うと、春水の友人である十四郎がこそっと教えてくれたり、他のおせっかいな面々が耳打ちしてくれていたからである。無論、春水の女性遊びの激しさを知っているからこそ、面白がって教えてくれていたという一面もあるのだが、お陰で七緒はそちらの方面は気にせずに済んでいたのだ。
 そんな別れ話から既にかなりの年月が経っている。もうじき結婚するからといっても、嫉妬して何かしでかすには随分と時間が掛り過ぎているように思うのだ。

「随分、大人しいじゃないの」
「…………」
「何か言ったらどうなの」
「では、あなたは誰ですか?京楽隊長にとってどんな存在ですか?」
 尋ねられ七緒は冷静な声で返す。いっそ冷ややかと言ってもいいかもしれない。
「……私は、京楽様の女です」
「おかしいですね。百年以上そのような相手は私だけになっていた筈なのですが」
 そう、少なくとも百年以上は居ない筈だ。浮気をしようものなら、おせっかいな者達が七緒に告げ口をしてくれたし、それ以上に春水自身が嫉妬深い性格なので、七緒以外に目を向けることがなかったと断言出来てしまうほどだ。
 七緒が自信たっぷりに言い切り、女は押し黙った。

「私は、待っていたのです」
 七緒はふと女の言葉遣いに思い当たった。女から微かに香る匂いに、話し方。以前一度だけ経験をしたことがあった。
「ここは……」
「そこまでだ、女」
 七緒が場所を言い当てようとした時だった。襖が開け放たれ、男が入って来た。
「京楽春水と別れよ。相応しい女はここにおる」
 尊大な口調で命じるところからすると、春水のことをあまり知らぬのだろうかと思った。
「………あら、そこまでおっしゃる割に、京楽隊長の斬魄刀の能力をご存じないのですね」
 七緒は冷ややかな眼差しを男へと向けた。
 
 襖が開け放たれた場所からは光がさしこんでいる。つまり、影が出来ているということだ。
『影鬼』
 低く這うような声とともに、影がせり上がってくる。
 黒く濁った水から這い上がるかのように春水が出てきたのだ。
「やあ、七緒ちゃん。大丈夫かい?」
 男と女には見向きもせず七緒の元へと真っ先に歩みより片膝をついた。本来敵がいる場所では決してしない行為だ。つまりは、それほど心配のいらない相手であるということだ。相手の正体を知った上で入って来たのだろう。
「はい、少々意識が混濁しておりましたが、今のところ大丈夫なようです」
「そう、とっとと片づけて、四番隊で診て貰おうね」
「はい」
 春水は立ち上がり右手の刀を肩へ担ぐようにし、左手の刀を構えることなく降ろしたままで、男と女の方へと向くと首を傾げた。

「君達、誰だい?何で七緒ちゃんを攫ったの?」
 書類を見、女将の情報を合わせて来たものの、春水には全く見憶えのない二人がそこにいた。もっとも、女の方は一度会っただけなので、記憶になくなった可能性があるのだが。
 問題は男の方である。どうやら京楽家に連なる一族らしいのだが、春水には見覚えがない。


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