「うわー!案内します!させていただきます!!」
「…七緒ちゃん、言うねぇ…」
「学期末の前に成績見れるのも良いじゃないですか。先生、見せて下さいな」
 七緒は笑顔で教官に向かい手を差し出した。
「わー!!まって、お母様!お願い!案内しますからっ!」
 学友たちは気の毒そうな視線を向けるばかりだ。相手が相手だけに庇いようがない。同じような境遇の者は同情の視線を向け、親のいないものは安堵のため息を吐き出した。
 学友同士で競い合ううちは良いのだが、親に成績を見せるのではなく見せられるということは、妙な恥ずかしさと居た堪れなさを感じるものだ。これはいくつになっても変わらない感じだと思われる。

 特に一秋は両親が隊長と副隊長という立場である。周りからは成績が良くて当たり前と見られることがあるだけに、実際に比べられるのは相当に嫌であろう。

 教官も苦笑いを浮かべつつも、今現在の成績表を手渡した。そもそもこれが目的の視察でもあるのだ。
「ありがとうございます」
 七緒は受け取ると成績表を見始めた。春水も暴れる一秋を小脇に抱え直して覗きこむ。
「どんな感じだい?」
「見るなー見ないでくれー!」
「あらあら、まあまあ」
「おや、へえ。一秋君、剣道ばっかりじゃないの。ダメだよ〜?偏りは」
 成績表を一目見て春水が指摘する。
「だって、剣道強くならなきゃ、更木隊長に一太刀も当てられないよっ!」
 一秋の畏れ知らずの発言に教官はぎょっとし、生徒達も剣八の名を知る者は無理だろうと言う表情になっている。
「…おんや、更木君に…う〜ん、尚更霊圧も何とかしないとねぇ?霊圧負けしちゃうよ?」
「え?そうなの?」
 春水はできないと否定はしなかった。それどころか助言している。そのことに一同は驚いた。
「そうだよ?彼の異様なまでの強さは、桁違いの霊圧にあるんだから。無尽蔵と言って良いくらいの」
「そ、そうなんだ…」
「そうだよ、だから霊圧をちゃんと調整できなきゃ、剣をふるったところで刃が届く前に弾かれちゃうよ?」
「う〜」
 春水の解説には一秋だけでなく、生徒一同初めて知ったことでざわめきが広がる。
「…京楽隊長…ばらしてしまっても、よろしいのでしょうか…」
 教官が不安げな表情で確認する。
「心配ないでしょ。ばれた所で対応策なんてないもの。自分から教えることだってあるくらいだし。実際霊圧を常時減らしてあの状態なんだから」
「え?」
 教官が驚きの表情になる。どうやら彼も知らなかったようだ。
「あの眼帯に霊圧を常に食わせてるんだよ」
「お陰で、平隊員が平常でいられるとも言いますか…」
 春水が説明し、七緒も苦笑いで説明を付け足す。
「ちょ、どういうこと?それ」
 一秋には聞き逃せないことだ。思わず問い詰める口調になってしまう。
「まあ、こればっかりは…実践した方が早いかな」
 春水は一秋を下ろすと、皆の方へと向いた。
「霊圧張り巡らせて、気合いれてなさいよ?」
 微笑を浮かべるなり、春水は一気に霊圧を上げた。

「うあっ」
「ぐ」
 皆が体を押さえ、地面にひれ伏していく。
 一秋も座り込んだまま驚きの表情で、立ちあがることができず茫然と見上げるばかりだ。
 七緒も、苦笑いを浮かべながらも少しばかり辛そうな表情だ。
 教官も苦しげな表情でいるが、何とか立っていられる。

「ご免よ、七緒ちゃん」
 春水は不意に霊圧をおさえると七緒を包み込んだ。
「…ふう…」
 大きな溜息を吐きだし春水にすがる。
「解ったかい?一秋君」
「…ん…」
 大量の汗を流しながらも一秋は何とか小さく頷いた。立ちあがろうにも震えて体全体に力が入らない。
「無理しなさんな。しばらくじっとしてなさい」
 春水はしゃがみこみ一秋の頭を撫でた。
「……親父…」
「うん?」
「……すげえ」
「…ふふ、そいつはどうも」
 弱々しいながらも笑みを浮かべ、瞳を煌めかせる様子からして、どうやら一秋はかなり父親の力の素晴らしさを再認識したようだ。



 この後は、結局春水と七緒に良いように振り回されることになってしまった。
 昼など学院長の誘いを断り、学生たちと一緒に学食で昼食を取って皆を驚かせたり、寮に乗り込み七緒に試験の成績が悪かった答案用紙が見つかり怒られてしまったり。



 八番隊の隊長と副隊長が去ったあと、一秋を羨ましいと思う者はいなくなっていたそうな。

「隊長なんて、上司としてはいいかもしんないけど、親に持つもんじゃねぇ…」
 一秋のぐったりと机に突っ伏しての呟きの重さに、寧ろ同情の視線が向けられていたのでした。



おしまい


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