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所が、今日の夢は随分を筋が通っているのではないだろうかと、想像ができる。
と、言うよりも七緒が酒に酔って眠っている春水を目撃しているのは、今日に限ったことではなく、先にも記したようにいつものことである。
七緒の名前を寝言で呟いているのを聞いたのも、今日が初めてではないのだ。
また、乱菊ややちるなどの目撃情報からも聞いたこともある。
「良かったわねぇ、七緒。あんた京楽隊長に愛されてるわよ。いいわねぇ」
乱菊がからかい交じりに、ちょっとだけ羨ましそうに報告してくれた事すらあった。
「あのねぇ、京ちんがゆってたよ?ぱふぱふできないとか。んで、ななちんに怒られてたの」
これはやちるが目撃した情報だ。女性死神協会でカードダスという企画を立てた時に、剣八の肩の上から春水を撮影したものがあった。
涎を垂らしてだらしない酔いつぶれた姿に、やちるが指さして台詞を付け足した。それを清音が清書してカードに仕上げたのだ。
だらしのない姿を目撃され撮影され、あまつさえ変な台詞まで寝言で言っていて、七緒は頭が痛くなったのだった。
「…全く、本人がここにいるのに、何時まで夢の中にいるのだか…」
溜息交じりに呟くと、春水の手が七緒の手を握り締めた。
「え?何…」
「ん〜、キスで起こしてくれるの待ってたんだけれどなぁ…」
残念そうに呟く春水の顔を見ればいつの間にか目が開いていた。
「ちょ、起きていたなら、さっさと起きて下さいよ!」
慌てふためき顔を赤くする七緒を見上げ、春水は笑みを浮かべて体を起こした。
猪口や徳利から手を離して涎を拭う。
「ん〜、七緒ちゃんの夢を見て、目が覚めたら七緒ちゃんがいるってのは、いいねぇ…」
笑顔で伸びをして欠伸をして、そんな風に語る春水を見上げ、七緒は眉間に皺を寄せた。
「ね、七緒ちゃん。ここでおはようーのキスしてくれたら嬉しいなぁ」
春水は調子に乗って自分の唇を指さしておねだりをしてみた。
勿論、七緒の行動を知っているので、この後平手打ちされようが本で殴られようが、甘んじて受けとめるつもりだ。七緒がセクハラを嫌がっていることを知っているが、ついついしてしまう手前、攻撃を除けることはしない。
「ん?」
笑顔で促してみる。
「……仕方がありませんね」
大きな溜息とともに思いがけない返事に、春水は一瞬我を忘れた。
伏せられた顔に、眼鏡のレンズ越しに長い睫が見える。七緒の細い指が眼鏡に掛かったかと思うと顔から外され、卓の上に置かれた。
「え?」
戸惑ううちに七緒の唇が春水に重なった。
七緒は立ち上がり春水の頬を両手で挟みこんで唇を重ねてきたのだ。小さな舌が春水の厚い唇をなぞっている。
「ん…」
春水は目蓋を閉じて唇をそっと開けて、七緒の舌を受け入れた。
七緒の手が春水の項へと移動してより深くを求めるように力が篭る。
春水は七緒の腰を両手で支えるようにして抱きよせて、口付けを受け止める。
ようやく唇が離れた時の春水の表情はとんでもなかった。
「うっ、た、隊長!なんて顔してるんですか!」
春水の笠を被せてしまい表情を隠す。
「え〜?だってぇ、七緒ちゃんからキスしてくれたんだもん。ボク嬉しくって…。ん〜、たまには七緒ちゃんが積極的なのも、いいもんだねぇ…どうも…」
笠で隠しきれない春水の口元はだらしなく笑み崩れている。
「うう…」
なんで言われるままにしてしまったんだろうと、七緒は真っ赤になりながら眼鏡をかけ、春水の口元をまともに見てしまった。
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