宿に戻るなり春水は七緒を布団へと誘いながら説教を始めた。
「全く、小さな頃からの七緒ちゃんを知っているから、理解できるからいいけれど。他の男にあんな表情を見せちゃダメだよ?駆け引きをしてるって思われかねないんだから」
「え?そ、そうなんですか?」
「そうだよ」
 七緒の浴衣を手際よく脱がせながら言い聞かせる。だからといって駆け引きを覚えて貰おうとは思っていない。自分との間に駆け引きは無用だと考えているからだ。
「……でも、京楽隊長は駆け引きばっかり…」
 特に戦闘は敵との駆け引きが勝負の決め手になることが多い。
「ボクは良いんだよ。だから、七緒ちゃんもそのままで良いの」
 音を立てて口付けをしながら、手を浴衣の裾へと潜らせる。
「何でですか?私だって…」
「何言ってるの。副隊長さんは隊長の足りない所を補うのが役目の一つでしょう?夫婦や恋人や友達も同じ。全く同じ思考の人間が一緒にいたって楽しくもなんともないじゃないか」
「……まあ、それは、確かに…」
「でしょう?だから、七緒ちゃんはそのままで良いんだよ。ボクが気が付かない所を気付いてくれるし、七緒ちゃんが気付けないところをボクが気が付けるのは違う所を見たりしているから」
 無論相反する性格であれば喧嘩もあるが、それでも全てが同じ意見で突き進んだ場合、間違いが指摘できない恐怖もある。
「だから気にしちゃダメだよ」
 春水が優しく甘く諭す。
「それに、駆け引き上手な相手が良ければ、最初っからボクは七緒ちゃんを選んだりしないよ」
「……あ…」
 全てをひっくるめて、七緒ならと選んだのだから。
 長い間相手を決めずに過ごしてきたのに、今更ながらに選んだ相手。

 まるで長い間自分を待ってくれていたかのような言葉に、七緒の口元は知らず綻ぶ。

「春水さん…」
「ん、七緒ちゃん」
 二人の唇が自然に重なった。



 春水の思うまま、なすがままになるのにさほど時間は掛らなかった。
「ふあ…あ…らめ…」
「ん〜…ダメ、じゃなくって、良いでしょう?」
 音を立てて吸い付き白い肌に紅い痕を付けていくと、不意に顔を上げて尋ねた。
「ね、七緒ちゃん。痛くないでしょう?」
「ふあ?」
「ボクの唇」
「……ん」
 七緒は蕩けた表情で小さく頷く。
「ん?解りにくい?ちゅーしようか?」
「…ん…」
 春水の問いに素直に頷く様子に、春水が笑み崩れる。
「もう、可愛いんだから。七緒ちゃんてばっ」
 こんなに素直で可愛らしい様を見せられると、変わって欲しくないと思えるのだ。
 自分と言う悪い見本に染まらないままでいて欲しいと、身勝手にも思っている。

「あ、あんっ…たいちょ…そんな…」
 身悶えし喘ぐ様子を目を細めて見つめ、更に喜ばせようと身を深く沈ませ突き進む。
「あ、ああっ!!」




 いくら知識があっても、春水には叶わない。

 翌朝、先に目が覚め隣で眠っている春水を見つめた七緒は苦笑いを浮かべ溜息を吐きだした。
 何か夢でも見ているのか楽しげに口元をゆがめている。
 厚みある唇は確かに荒れていないし、指先も荒れていない。
「全く、仕事にもこれくらいのマメさがあれば良いのに」
 思わず愚痴が零れてしまうが、それでも、自分一人に尽くしてくれる姿勢には、悪い気はしないし、春水程の大人の男がひれ伏す姿は心地が良い。

 たまの休暇、七緒とて仕事を忘れてはしゃぎたい年頃でもある。
 春水に巻き込まれた振りをして楽しもうと、七緒は自分の唇を春水に押し当てた。

 官能の嵐に巻き込んで、何もかも忘れさせてと願って。





[*前] | [次#]
[戻る]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -