「そう言う事です。苦いし不味いし…もう二度と飲むまいと思う程に子供でした」
 特に子供は苦味が大変苦手だ。四人は子供のころの自分を想像し、元柳斎の点てた抹茶を美味しいと思えるかどうかを想像した。直ぐに結論は「無理」と達した。それほどにまだ四人は若いし、先ほど食べたパフェやお茶くらいならともかく、茶道部などに積極的に足を向けていない程、抹茶を自ら進んで飲もうとは思っていない。

「あ、でもぉ…七緒さんって、そんなに前から京楽さんと一緒だったんですね」
 両手を合わせて楽しそうに、先程の会話から気が付いた事を口にすると、男三人の頭には平安時代にできた男の物語の名前が頭に浮かんだ。
「そうなんだよ。七緒ちゃんがこれっくらいのころからのお付き合い」
 春水が嬉しそうに小さかった頃の七緒の背丈を指示す。その高さはやちるより少し大きいくらいだった。剣八とやちるのような関係ではないと容易に想像が付くだけに、ますます男三人の頭の中では浮かんだ考えが確定へと変わった。
「うんうん、だから七緒さんは京楽さんと一緒でも大丈夫なんですね」
 織姫は自ら達した結論に大きく頷く。その言葉の端々に羨ましいという気持ちが漂っている。
「だって、たつきちゃんもそうだし、朽木さんもやちるちゃんも、身近にいた男の人にびしばし言えちゃってすごいなぁって」
 一護へ対するたつきの態度、一護と恋次へ対するルキアの態度、剣八や他の面々へ対するやちるの態度は、織姫からはとても考えられないくらいに対等でそれでいて叱ることすらできていて尊敬に値する。それにはきっと小さなころから一緒にいたからに違いないと結論付けたようだ。

 男三人はちょっと違うのじゃないだろうかと思いつつも、口には出さない。
「…まあ、確かに。幼い頃から見ていると、良い面ばかり見つづけている訳ではなくなりますからね」
 茶を啜りながら溜息交じりの七緒の台詞に、一護と雨竜が妙に納得した表情で頷いた。自分たちが父親に対する感情がまさしく「良い面ばかりじゃなかった」からである。
「え〜、良い面もあるでしょう?七緒ちゃん?」
 誉めて欲しくて春水が身を乗り出し、七緒の手を握ろうとする。
「痛いっ、叩かなくってもいいじゃないの」
 懐から取り出した扇子で手の甲を叩かれ、赤くなった甲へ息を吹きかける。
「人前です」
「けちぃ、いいじゃないの」
「全く…」
 ぼやく七緒が扇子をしまおうとすると、扇子を見た織姫が思い出したように一護達を振りかえった。
「大変、お土産買い忘れてた」
「山じいにも買っとかなくちゃいけないかな…」
「そうでしょうね」
 六人は揃って店を出ることにした。
 その時四人は立ち上がって全身を見たことで、春水と七緒の姿にようやく気が付いた。二人は現世の着物を着ていたのだ。

「わあ、着物素敵―!」
「やっぱ、似合うなぁ」
 違和感なく着物を着こなしている二人の姿に、思わず声をあげて感想を漏らす。
「可愛いでしょう?ボクが選んだの」
 春水は嬉しそうに自慢する。七緒に良く似合っているので、織姫は素直に感動し着物に疎い三人でも素敵だと感じ頷いた。
「なんか、ここまで違和感ないと、夫婦みたい」
 織姫が素直に感じたまま口にすると、春水の瞳が煌いた。
「そう思うかい?織姫ちゃん」
「え?ええ。お似合いだなぁって…」
「聞いた!?七緒ちゃん!!」
 春水の張り切りように七緒の頬はひくついていた。何とやっかいな事を言ってくれたのだろうと思う。
「そ、それより、総隊長の…」
「山じいの土産なんかそこらで買えばいい!」
 鼻息荒く七緒に迫る様子は鬼気迫るという言葉がしっくりくる。

 そして、春水は抜かりがなかった。
 先ほどの店の中で、織姫からガイドブックを借りてざっと近辺の店を確認していたのだ。

「じゃ、君たち!旅行を楽しんでくれたまえっ!」
 春水はそう言い捨てるなり七緒を抱き上げ、路地に入って走り去ってしまった。

「……真昼間から、やるなぁ…」
 思わず頬を赤らめながらもついそんな感想を漏らしてしまった一護。
「大人だなぁ…」
 織姫も頬が真っ赤になっている。



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