「ん?一応お仕事でね。さっき終わって、折角だからデートを…痛いっ!」
 いらぬ事まで言わなくて良いとばかりに、七緒が卓の下で春水の向う脛を蹴ったのだ。
「……そうだわ。抹茶で有名なお店とかってあるのかしら?」
 話題を逸らす為に七緒が思い付いたように問いかける。
「ありますよー。京都は宇治茶で有名ですから!抹茶なら祇園に有名なお店があります」
 ガイドブックを捲り織姫が笑顔で差し出す。
「あら、この近くなのね」
「はい。さっき食べてきたんですけど、すっごく美味しかったですよ!」
「美味しい?」
「有名な抹茶パフェがあるんです!」
 こういう事には流石は女の子と言うべきか。瞳を輝かせ力説する織姫に、付き合った男の子三人からは苦笑いが浮かんでいる。
 だが、織姫の様子に春水も七緒もあまり乗り気ではない。虚ろな笑顔で返す。普段からあまり愛想の良くない七緒はともかく、女の子に甘い顔をする春水までもが同じようでは、流石におかしいと気が付く。

「パフェ嫌いですか?」
「いやいや、パフェじゃなくって、抹茶の方が嫌いなの」
 首を傾げる織姫に、春水が苦笑いになり手を顔の前で振り否定する。
「え?でも、今抹茶の事聞いたじゃないですか」
「…山じいの命令。抹茶好きなのは山じいの方なの」
 七緒は眉間に皺を寄せて、春水に説明を任せっぱなしだ。言葉にするのも嫌なのだろうかというくらいだ。
「総隊長さんの…」

 何時までも立っていては迷惑だと気が付いた四人は、二人の隣の席に落ち着いて説明を聞くことにした。
 お茶を四つ注文して話を聞く体勢になる。

「まあ、山じいとの取引みたいなもんでね。京都でちょっと羽を伸ばす変りに、土産を買ってこいって。今は新茶の季節だからねぇ…」
 特別メニューにも書かれている言葉を指さし、肩を竦める。
 先ほど言い掛けたデートという言葉と、羽を伸ばすという言葉に四人は納得し頷いた。

「でも、何で抹茶嫌いなんですか?」
 織姫が首を傾げて問いかけると、春水は益々苦笑いが深くなる。
「山じいに何年も何百年も付き合ってご覧、嫌いになるから」
 誰もが恐れる元柳斎を山じいなどと呼べるのは春水と、剣八くらいだ。否、剣八ですら「山本のじーさん」と一応「さん」づけしている。
「…あのじいさんとの付き合いってそんなに長いんだ?」
 一護が興味深げに問いかける。何せ父の一心や、ふてぶてしい軍勢の面々ですら一応尊称を付けて呼んでいるくらいなのだから。実際に一護も総隊長の強さを目にしたことがあるが、その強さに納得した程だ。

「うん、まあね」
「…京楽隊長と浮竹隊長は、山本総隊長の愛弟子でいらっしゃいます」
 はぐらかす答えに、付け加えたのは七緒だ。
「愛弟子って?」
 春水は一瞬嫌な表情を見せたが、逆に自分の口からより七緒の説明の方が解り易いだろうと任せることにした。
「死神を教育する学校があります。その設立者が山本総隊長で、お二人は学院初の隊長です。ちなみに、卯ノ花隊長に次いで在位の長いのが、京楽隊長と浮竹隊長でいらっしゃいます」
 長い付き合いというのは本当なのだと四人は改めて春水を見つめた。

「七緒さんは?」
 そんなに長い付き合いの隊長達はともかく、七緒はどうなのだろうと織姫が尋ねる。
「……私は当時子供でした。矢胴丸副隊長がいなくなってしまって、京楽隊長と話す機会が増えて…」
 そこで思い出したかのように春水を睨みつける。
「え?何?どうかした?」
 春水は解っていないようで首を傾げてくる。
「隊長がいけないんですからね」
「え?ボク?何で?」
「子供の私に、あれは飲み物じゃないって力説して」
「そうじゃない?特に山じいの点てた抹茶は最悪だよ。超絶に苦いんだよねぇ…」
「ええ、そうですとも、そんな事を入れ知恵された子供が、山本総隊長の点てた苦いお茶を飲めばどうなるか解りませんか?」
 四人の方をくるりと向き、眼鏡を持ち上げ問いかける。
「あ…それって」
「三つ子の魂百までも…」
「刷りこみ…?」
「洗脳」
 四人それぞれの感想に、七緒は大きく溜息を吐きだして頷いた。



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