「はい」
 二人は通りに沿って歩きだした。

 時折学生の団体や、外国人とすれ違い、目立つ二人は振り返って見られてしまうが、隊長と副隊長という役職柄注目されることに慣れている二人は気にせず店を物色している。

「あ、ここのお店はどうでしょう。緑茶って書いてあります」
 店先に置かれたメニューを捲りながら確認していた七緒が指をさす。
「そうだね、ここにしようか」
 春水もメニューを確認し大きく頷いた。

 店に入ると元気な挨拶の声が聞こえたが、何せ大柄な春水と七緒の組み合わせである。目立つことこの上ない。様々な客に慣れた筈の店員ですら一瞬目を留め動きを止めてしまった程だ。

 席に案内され、新茶の緑茶と水羊羹の組み合わせで注文をする。
「本当に抹茶の専門店ばっかりなんですね」
「どうやら産地みたいだねぇ…」
「総隊長は解っていて派遣されたんでしょうか?」
「…ボクがやることはお見通しだろうねぇ?」
 七緒がメニューに書いてある説明を読みながら疑問を口にすると、春水は行儀悪く肘を卓へつき苦笑いで頷く。
「後は不思議と、緑茶よりも、ほうじ茶や他のお茶ばかりなんですね」
「新茶はどうしても時期が限定されるからじゃないかな?ほうじ茶は加工するから多分年中飲めるんじゃないかな?」
「成程…」
 春水の説明に納得したところで、店員がお茶を持ってきた。

「お待たせいたしました」
 水羊羹の入った皿を先に置き、次いで蓋付きの茶碗をそっと置いて行く。
「じゃあ、いただこうか」
「はい、いただきます」
 春水が蓋を取り、蓋に溜まった雫を茶碗の中へ落とすように垂直にする。七緒も見習って同じようにする。
 蓋を裏返しにそっと置き、両手で茶碗を持ち音を立てずに静かに一口飲む。
「…ん〜…産地なだけあって美味しいねぇ…」
「本当に。ちょっと温度が低めなんですね」
「新茶は低めが良いらしいよ」
 こういう説明や作法は流石上級貴族出身なだけはある。何気に知っていることが多いのだ。だからこそ七緒は黙って見習っていたのだ。
「それに、お茶の香りがすごいですね」
「うん」
 水羊羹を黒文字のつまようじで一口サイズに切って食べる。
「ん!美味しいっ!」
「本当だ、これも美味しいねぇ…当たりだったね、このお店」
「はい」
 美味しい水羊羹とお茶の組み合わせに七緒はご満悦だ。零れる笑顔に春水も笑みが深くなる。
 気の緩んだ今なら恋人らしい振る舞いをしても怒られないのではないかと、そっと手を伸ばし七緒の手を握ろうとした時だった。

 甘い雰囲気が一瞬に崩れる声が掛った。
「あれえ、京楽さん!何でここに」
 店の外からちらりと見かけた大柄な着物姿に、何より抑えてても覚えのある霊圧で顔を覗かせたのだ。
「あ、京楽さんに七緒さん。お仕事ですか?」
 一護のすっとんきょうな声に、織姫の楽しげな声。二人が振り返るとそこには一護と織姫だけではなく泰虎や雨竜の姿まであった。
「先程一瞬感じた霊圧はお二人でしたか」
 雨竜が眼鏡を持ち上げ納得したように頷く。

「おやぁ、織姫ちゃん達。君たちこそどうしたんだい?しかも揃って」
 春水は一瞬だけ眉間に皺を寄せたが、振り返った時には微塵もそんな様子を見せずに笑顔を見せた。
「修学旅行で京都に来てるんです」
「しゅうがくりょこう?」
 聞き慣れない単語に首を傾げると、織姫が思い出したように両手を打ち説明を加えた。
「えっと、学校の行事の一つです。他の土地へ皆で旅行にいくんです」
「へえ、楽しそうでいいねぇ…」
 春水は笑顔で頷く。
「京楽さん達は…、どうしてここに?」
 泰虎が首をかしげ問いかける。



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