1/424242hitリク!「そうだ京都へ行こう」


「さて、おしまい」
「お疲れ様でした」
 春水が納刀し背後に控えていた七緒を振りかえる。
 七緒はというとあっさりと片付けた春水の手腕に惚れ惚れする一方、どうしていつも腰が重いのか今回のように手早くやって欲しいものだと、労いの言葉を掛けつつも溜息が出てくる。
「おや、何か納得しなかった?」
「いいえ、今回は。いつもこうでしたら助かりますのに」
 溜息に目ざとく反応した春水は首を傾げ七緒を見下ろすと、七緒は眼鏡を軽く持ち上げて説明をする。
「ああ、そう言う事。だってここじゃあね。流石のボクでもねぇ…」
 肩を竦めて苦笑いを浮かべ足もとに広がる土地を眺める。

 美しく均一に整った都。
 そこは京都であった。

「かつての重霊地…」
「ここ程はっきりとした土地はないからねぇ…、山じいの時代には結構封印もしてきてるみたいだし」
 現世でも多々記録が残る程の土地は、この京都と他数か所しか存在しない。
「その上、随分ざわついているようだしねぇ…どうも…」
「そうですね。観光地ということもあるのではないでしょうか」
「うんうん。で、七緒ちゃん。ボクらも観光していかないかい?」
「は?」
「折角ここまで来たんだもの。見ていかないと損じゃない?」
「……はぁ…」
「ん?」
「そういう事をおっしゃるからには、手まわしされているのでしょう?」
「勿論!」
 七緒は大きく溜息を吐きだしながらも、反論はしなかった。何故なら彼女自身も興味があったから。

「じゃあ、早速義骸へ入って遊びに行っちゃおう!」
「…はい」
 はしゃぐ春水を見上げ七緒は苦笑いを浮かべながらも頷いた。


 義骸に入り用意されていた着物へ着換えたのだが、そこで七緒はふと違和感を覚えた。
「隊長」
「ちちち、七緒ちゃん。義骸に入ってるときそれは駄目」
「…あ、春水さん」
「はい、何かな〜?」
 笑顔で見下ろしてくる春水をちらりと睨み上げる。
「随分と手まわしがよろしいようですが…」
 そう、着物は上質な縮緬で今の季節にぴったりな紫陽花模様が入っている。春水の着物も無地ではあるものの、七緒に合わせ青み掛かった紫色で半襟には臙脂色を持ってくるなどかなり洒落ている。
「あはは〜、七緒ちゃん、周りをよーく見てご覧?」
「…周り…」
 春水が示した方向をくるりと見渡す。
 自棄に目立つ緑色の旗の数々。
「え?新茶?」
「そう、山じいに土産買ってこいって言われた」
 つまり、特別休暇と引き換えに抹茶を買って来いと命じられたのだ。
「最悪」
 眉間に皺を寄せ七緒が一言呟く。
「全くだよ…」
 そう返す春水の眉間にも皺が寄っている。

 二人は抹茶が大の苦手だ。そんな二人にわざわざ抹茶を買ってこいと命じる辺り、解っているのか解っていないのか。ボケているんだというのが春水の弁だ。
「でも…どの抹茶がいいのかなんて、解りませんよ」
 土産を所望するという事はそれなりに良い茶を期待しているのではないかと思うのだが。
「テキトーでいいと思う」
「……そうですね」
 春水が投げやりに言えば七緒も珍しく否定しない。
「それより、新茶ってのは何も抹茶だけじゃないんだからさ、他の美味しいお茶がないか探してみない?」
 春水が通りを指さし促す。
「良いですね。水羊羹もあると嬉しいです」
「いいねぇ、探してみようか」



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