窓の外に見える太陽が頂点から西に傾き始めた頃、正十字学園の理事長室ではその部屋の主であるメフィスト・フェレスが難しい表情を浮かべて書類の束と向かい合っていた。


「さて、どうするか…」


誰に言うでもなく一人悩ましげに呟く。書類に書かれた祓魔師の情報を一人一人吟味していくが、なかなかいい人材が見つからない。どれもこれもありきたりでつまらない内容ばかりなため、まるで興味をそそられない。

近々起こるであろう面倒事に備え手元に有能な祓魔師を用意しておきたいのだが、このままでは祓魔師より面倒事の方が先に来てしまいそうだ。

書類のページを1枚捲る。

ああ、これも面白くない。自分が欲しいのは強く、賢く、側に置いても飽きないような人物。操り人形のように従順な人間でもいいが、少し刃向かってくるぐらいも面白い。それでいて綺麗でミステリアスな魔性の女や可憐な美少女なら尚良い。

まあ、そう簡単にそんな人物が見つかるはずもないのだが。

資料に目を通しながら一つ溜息を吐き出す。仕事の一貫だと我慢して手を動かすが、いい加減似たり寄ったりな内容の情報に目を通すのは飽きてきてしまった。気分転換にゲームでもしようか…そんな考えを巡らせたところ、不意に扉が叩かれた。


「フェレス郷、お客が…」

「客?」


扉の外から聞こえる控えめな部下の声に緩く首を傾げる。誰かと会う約束などしていただろうか。記憶にない。そんな考えを巡らせているとこちらの返事も待たずに扉が開かれた。


「よう、いい祓魔師は見つかったか?」

「なんだ、お前か…」


片手を上げ軽いノリで部屋に入ってきた男…現聖騎士である藤本獅郎を見てフゥ…と一息吐き出す。愛想のない返事をしたためか獅郎からは「いいご挨拶だな」と厭味を返されるが、生憎こちらは先程からずっと書類と睨めっこをしているのだ。相手のテンションに合わせてやるほどの余裕など残っていない。上げた視線を再び書類へと落とす。


「暇潰しなら出て行ってください。私は生憎暇じゃないんです」


片手を犬か何かでも追い払うかのようにシッシッと振りながら言葉を紡ぐ。これ以上獅郎から厭味を言われないようご丁寧に敬語で丁重に追い払う……つもりだった。


「あれあれあれぇ?そぉーんな事言っていいのかなぁ?」


獅郎が茶目っ気たっぷりな口調で言葉を紡ぎながら持っていた鞄からファイルを取り出す。薄いそのクリアファイルに何が入っているのかが気になり再び書類から視線を上げると獅郎はニッと口角を上げこう告げた。


「いい祓魔師を探してるって聞いてな」


なるほど、どうやらクリアファイルの中身は祓魔師の情報らしい。しかし、それは現在自分の手元に揃っている。そんな考えを察してか獅郎は掲げたクリアファイルを左右に揺らしながら平然と「その中にはない奴だ」と告げた。

ない?ここに?正十字学園の理事長であり名誉騎士である自分の権限をフルに使ってヴァチカン支部から直に取り寄せた情報を持ってしても得られない情報があると言うのか。


「俺の秘蔵っ子でな。近々呼び戻そうとは思ってたんだが…」


獅郎が続ける言葉を聞き、メフィストの脳裏に嫌な予感が過ぎる。


「ちょっと待て。ここにない情報を何でお前が持ってるんだ?」

「お前に隠してたからに決まってるだろ」


なにを当たり前のことを、とでも言いたげに目を丸くした獅郎が平然と爆弾発言をした。

嫌な予感が的中。なんとも聞き捨てならない台詞だ。確かに、聖騎士ともなれば特定の情報の流出を避ける事ぐらい出来るだろうが旧知の仲の自分に隠すほどとは…いったいどんな祓魔師なのか。とりあえずその藤本獅郎の秘蔵っ子とやらの詳細が知りたい。


「見せろ」

「やだね」


片手を差し出しファイルを渡すよう促すと獅郎は自分から話を切り出したのにもかかわらず、さらっと嫌だと言葉を吐き出した。その瞬間、その場の空気が凍り付き、妙な沈黙が部屋を占める。


「お前、本当に何しに来たんだ…」

「俺の可愛い秘蔵っ子を自慢しに」


獅郎は平然と、これまた平然と爆弾発言を続ける。ヒクッとこちらの表情が引き攣ったのを知ってか知らずか獅郎の表情が何処か楽しそうに緩んだ。

もちろん、そんなわかりやすい表情の変化をこちらが見逃すはずもなく、苛立ちに任せ帰れ!と追い払ってしまいたいところだが、その気持ちをグッと堪えポーカーフェイスを保つ。ここで帰れなどと怒鳴ってはこいつの場合本当に帰りかねない。

暫し沈黙し、どうするか考えを巡らせる。

無下に追い払えないなら相手のペースに合わせてしまおうか。非常に面倒な手ではあるが、この際仕方ない。これでまたくだらない内容の祓魔師なら獅郎に祓魔師探しを手伝わせればいいだけの話だ。

考えをまとめ、一息吐き出してから口を開く。


「仕方ない。なら、その自慢話とやらを聞いてやろう」


椅子の背もたれに背中を預け、ゆったりと足を組む。長い話でも聞けるよう体制を整え、それから獅郎に真っ直ぐな視線を向けた。








情報を渡すまで帰すものか
(教えてもいいが……セクハラするなよ?)(私をなんだと思ってるんだ、お前)



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