「エルシャール、君はこの事件についてどう思う?」


先程からずっと特に理由もなく部屋の中を歩き回っていた名前が足を止め、私に声を掛けてきた。考え事をしている時の彼女の癖である行動が終わったのを見て、彼女がこの事件の核心に迫った事を把握する。

顎に緩く握った片手を沿えた名前はその場に立ち止まったままジッとこちらを見つめ私の返答を待っている。


「恐らく、あの状況下であんな事が出来るのは彼だけだろう」

「そう、その通り」


私の答えに満足したらしい名前はニッと口角を上げ笑みを深める。自分の中で既に答えは出ているのに私の考えを聞いてくるところは非常に彼女らしい。

彼女は面白い事が大好きだ。そして、周りの人間を自分の狂乱の舞台に引っ張り上げる事も好きという、端から見れば危険極まりない女性である。


「さあ、エルシャール・レイトン!愚鈍な警察諸君に我々の素晴らしい推理を聞かせに行こうじゃないか!」


それでも、私は彼女が放っておけない。それは、その危険極まりない思考回路の中にある彼女の優しさを知っているからか。

彼女は自分の舞台に引き上げた人間は決して誰にも傷つけさせない。それは例えどんなに関係の薄い人間でもだ。

私も何回彼女に巻き込まれ、そして救われたか…


「エルシャール、エルシャール!聞いているのか?」


どうやらこれ以上考え事に耽っている時間はないらしい。痺れを切らした名前が繰り返し私の名前を呼んでいる。


「ああ、すまない。少し考え事をしていてね」

「まったく、考え事なら歩きながらでも出来るだろう」


腕を組み、わざとらしく溜息を吐き出す名前。私は椅子から立ち上がるとシルクハットの鍔を持ち一度それを深く被り直した。








さあ、これで役者は揃った
(エルシャール、君の出番だ。愚鈍な警察諸君に君の素晴らしい推理を聞かせてやれ)(この事件の犯人……それは、貴方だ!)








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