メカクシ団2 | ナノ

例えば涙が緋かったとして

人の涙は、普通透明のようなうっすら水色のような。透ける色の筈だった。多分、水の中でも純度は高いんじゃないか。透明で、色なんてないばずだろう。

じゃあ、例えば涙が緋なのは?

何で、私の視界は赤い、涙も緋?

目の前で倒れて動かないモノは?赤い赤い赤い赤い視界と、部屋は。生臭い香りがする。何なんだよ、これは。蒸せ返りそうで、詰まってきた息に嗚咽が漏れた。頬を触った。ああ、涙じゃない。返り血だった。

血肉のような、赤いような、人間のような、人間だった筈のような、母だった筈のような、白かったような部屋は。何がどうしてこうして動いて壊れて歪んで消えてこうなった。どうなの、何なの、何でなの?

―――本当にわからない?

《本当は分かってるんじゃないの?》

知らないよ。解りたくもない。知りたくもない、何て。

《嘘つき。わかってるクセに》

―――知ってる、嘘だよ。

はは、何でこんな冷静なの?おかしくない?本当は知ってるよ、何でこうなってるのか。ただ理解しても、受け入れたくなかっただけ。いつも罵倒されてさあ。私要らないみたいでさあ。刺されたこともあったねえ。殴られたこともあったっけなあ。血が出ちゃってさあ。痛いとかわかんなくて、そう、笑ってた。

「気持ち悪い……!忌み子が!」

知ってるよ。気持ち悪いし、忌み子だし、要らないし、汚れてるし、嘘つきだし、道化師だし。ほら、人だって今、殺しちゃった。

「母さん、」

きっと生きてたら拒絶されるんだろうなあ。

「殺しちゃった」

嫌悪の瞳で見られるんだろうなあ。

「ごめんね」

私、嫌いだったけど、嫌いじゃなかったよ。だってさあ。一応血の繋がりはあったし、育ててもらったし。最後の血縁者だったからさあ。

「だけど、大嫌いだったよ」

自分ほどしゃないけどね。

「あと、ありがとう」

ほら、お世話になったし。嫌われてたけど。

「あと、泣いてなくてごめん。笑っちゃう」

亡骸を見て、笑っちゃう。

「最後に、さようなら」

永遠にさようならだ。


なんてね。
ああ、ごめん。ただの嘘だよ。

例えば涙が緋かったとして