壊れた世界


瞼を開いたその先の世界は、白黒で色がない。視界に映ったのは、たくさんのバラバラになった色々な欠片たち。もとは色彩があったそれさえも、この空間に馴染み感化されていくことで色を失う。色彩がある欠片は、徐々に喪い、二度と戻れない事を知っているのだろうか。

この空間は、壊れた世界。私の能力と感情で生じたひびに、暴走した能力と私の拒絶が入り込み空間を生んだ。この空間では、きっと私しか生きれない。人間やモノは全て窓硝子が粉砕したように砕け散る。そして、本来の意思や輝きを喪失して、永久の眠りにつく。ただ破壊するだけの力しか持たない、滅びの世界だ。

「……色が、わからない」

全てを喪失してしまうこの世界で生きる私は、色彩も人間も自分もよくわからなくなる。もう、わからない。ただ残るのは、歪み。ドス黒く染まった記憶は、どれだけ忘れようとしても、消そうとしても、壊そうとしても、消えない。なくならない。闇に葬りたいのに。

同じ時を繰り返す内に、今何歳なのか、此処は何処でどのくらい過ごしているのか、家族は、最後に人が来たのは何時、なんでここにいるの、全部混濁してる。何が何だかわからない。今は何年何月何日?私は今何処の親戚の家にいるの?斎藤家、林家、田村家、岡田家、秦家、深見家、新藤家………?

「何が本当?何が嘘?」

考えてもわからない。真実を見つけるための手掛かりや記憶さえも、混雑混濁混乱混合。嘘つきな私が吐いた嘘で何がどうなったっけ?謎が解けないわからない。闇に紛れる。嗚呼、疲れる。ならば、考えることを放棄しよう。私が何時目を閉ざしても、誰も何も言わないよ。

「壊れて歪んで壊れて歪んで……」

ほら、歪むよ。
ねえ、壊れたよ。

私は、この世界の住人だ。

両目が赤に染まり出す。視界が赤いよ、

パキン、パキン、と欠けて散乱していく欠片の源はなんだったのか。欠片が宙を舞い踊る。ふわふわ、くるくる。カーニバルではないのに、カーニバルのよう。悲しい悲しい、独りぼっちのカーニバル。

「触れても視ても、壊れない、歪まない誰かがほしい。効かない誰かがほしい。」

枯れた筈の水が落ちた。

床に落ちて弾けた水音と共に視界がモノクロに戻れば欠片が停まる。

それを合図に私は眠りにつく。

目を欺く彼が私を見ていたことを、私はまだ知らない。

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