今年の年末年始は、なんだってこんなカレンダーなんだ。
溜息を吐きながら壁に貼られた最後の一枚を見る。クリスマスはバッチリ平日だし、ここには日付がないけれどあろうことか3日が日曜日。カレンダー通りの職場は、やはり4日に始業らしい。正月ボケをする暇すらないじゃあないか。
仗助くんたちも冬休みは26日かららしく、通知表がクリスマスプレゼントだねとからかえばげんなりとした顔で小突かれた。
25日が締め日だから、仕事は当然忙しくて。「イブだろうが知ったこっちゃないよ!」と独身(恋人の話は聞いたことがない)のリーダーに言われて思わず溜息。天皇誕生日も出勤になってしまって、年賀状を作る暇もない。
当然、仗助くんに会うのも25日の夜までお預けだ。本当は26日まで待って欲しかったのだけれど、まぁ高校生にそんな事情が通じるわけもなく。「25日、仕事終わったらソッコー電話してくださいね!」の声に、半ば押し切られるように約束してしまった。
「世の中はクリスマスかー、」
街中に行かなければこんなに普通の1日なのにと溜息を吐きながら家に帰ったクリスマスイブ。テレビを付けたらきっとクリスマス騒ぎだろうから、付けずにいつもの1日を終える。
お風呂上りに倒れ伏すようにベッドに飛び込んだ私は、そのまま深い眠りに落ちた。
*****
ドゴン!という重い音に思わず飛び起きる。
家が崩れたのかと辺りを見渡しても、変わり映えしない私の部屋だった。
変な夢でも見たのかな、と思ったけどどうにも気になって仕方ない。まさかクリスマスに泥棒はないだろうと寝惚けた頭で考えつつ、とりあえず見に行くことにした。気にしながら眠るより、一度見て安心してしまいたいから。
フローリングは冷えていて、知らず子猫のような足取りになる。廊下に続くドアを開けようと手を伸ばしたところで、ひとりでにノブが回った。
「きゃあああっ!」
「うおっ!」
驚きに声を上げると、ドアの向こうからも同じように声が上がった。
へたり込む私の目の前で、ドアが開く。
「俺っス!仗助!」
ひどく慌てて私に駆け寄ってくるのは、どう見ても私の恋人そのものだった。
「え?ちょ、なっ…仗助くん!?」
思考が追いつかない。ここは私の家で、鍵はもちろんチェーンだってきちんと掛けたはずだ。だから絶対に、誰も入れないはず。
「…驚かしてスンマセン…大丈夫っスか?」
仗助くんは私を抱き起こして、心配そうにそう告げた。未だ混乱する頭で頷けば、彼は私をベッドに座らせ、その隣に腰掛けた。
「…どうしたの、急に。」
何を言えばいいのかわからないけれど、とりあえずそう聞いてみる。彼は少しばかり困ったように視線を泳がせて、ぽつりと呟いた。
「クリスマスだから、サンタクロース…しようと思ったんスけど…」
起こしちゃったら失敗っスね。と苦笑する。
あんな大きな音がしたらそりゃあ起きるだろうと思ったんだけど、仗助くんが残念そうだから黙っておくことにした。
「…じゃああの音、仗助くんが?」
「あー…ドア、壊した時っスね。あっ、ちゃんと直したから大丈夫っスよ?」
そう言われて仗助くんが部屋に入ったことに合点がいった。怪我が治せるって話は知ってたけど、そんなこともできるのか。
「えと、ありがとう。こんな格好でごめんね?」
寝ていたから当たり前なんだけど、クリスマスに恋人に会う格好ではないなと思う。
「あの、起こしちまったからアレなんすけど…これ…」
言いながら仗助くんは私の目の前に柔らかそうな包みを出した。開けていいかと問うと彼はもちろんだと笑って、それからこう付け足した。
「これはサンタクロースからなんで、仗助くんからのプレゼントは別にありますからね!」
包みを開けると、ふわふわのブランケット。
ひどく女の子らしいそれを仗助くんが買うところを想像したら、意外と似合っている気がして笑えた。
「…あったかそう。ありがとう。」
「ななこさん、職場寒いって言ってたから。…あと仕事中も俺のこと忘れないように。」
もらったブランケットを胸に抱く。ほんわかと暖かくなる気がするのは、布のせいだけではないに違いない。
「サンタクロースじゃあなかったの?」
「…あ。」
バレるつもりで来たのかと見上げたけれど、仗助くんは本気で慌てているようで、その表情から真意は読み取れなかった。
「…私が起きなかったら、プレゼントだけ置いて帰った?」
ちらと上目遣いに見れば、かれはこれまた慌ててなにやらしどろもどろに言い訳の言葉を探しているようだった。
「いや、まぁシタゴコロなしっつーのは…そりゃあキスの一つくらいはいっかなーって…」
「素直でよろしい。」
せっかく来てくれたんだから、キスの一つくらいは安いもんだと思って、彼の厚ぼったい唇に噛み付くようにキスをした。
*****
MerrychCistmas2015!
「…ななこさん、続きも。」
「それはまた明日ね!」
「えー…マジかよォ…。待たせるんだからその分期待してっかんな!」
*****
サンタがうちにやってきた。(壁を壊して)
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bkm