「もしかして、城之内の事好き?」
ある日の清掃時間、真崎さんが突然口にした言葉。私はロッカーに仕舞おうと手にした塵取りを取り落とした。プラスチック製のそれは、床に当たってカラランと音を立てる。
今、私達は教室で二人きりだ。それでも辺りを見回さずにはいられなかった。誰かに聞かれてはいないだろうな。
すると真崎さんは私の返事を待たずして「やっぱり」と呟く。
「いや、私はまだ何も」
「顔に書いてあるわよ」
そう言って完璧なウインクを飛ばしてくれた。……確信されてしまったようだ。
掃除用具を仕舞い終え、真崎さんは机に寄り掛かって本格的にお喋りの体勢に入る。最早誤魔化しても仕方がないので、私も腹を割って話す覚悟を決めた。
「どうして好きになったの?」
「え、いや……いつの間にか」
「だって城之内よ?」
真崎さんは訝しげな表情で首を傾げる。
「明るいし優しいし、良い奴だと思う……が」
「まあ、悪い奴ではないけど。でも意外」
そう話していると、不意に教室の後ろの戸が開いた。
「うわっ、城之内」
真崎さんの口から出た名前に、え? と振り向けば、そこには紛う事無き噂の張本人。驚きに肩がびくりと跳ねた。
「何だよ二人して驚きやがって……。ゴミ出してきたぜ」
「あはは……何でも無いのよ。お疲れー」
怪訝そうな城之内に、真崎さんは笑って言って誤魔化す。
ふと城之内が此方に視線を寄越した。
「お前、好きな奴いんだ?」
「!?」
度肝を抜かれた。
「き、聞いていたのか……!?」
身体が強張る。軽い目眩がする。心臓がうるさい。緊張から変な汗が流れてきた私とは対照的に、城之内は至って平静だ。
「途切れ途切れだけどな。聞こえてた」
城之内の態度から察するに、少なくとも最も重要な点は聞かれてはいないようで、一先ずは安堵した。
「そんで」と言い置いて、城之内がぐいと顔を寄せてくる。
「好きな奴って、誰?」
「…………」
いや、言える訳ないだろう。
口篭って沈黙を守っていると、城之内は続けて言う。
「絶対誰にも言わねえって!」
残念ながらそういう問題では無い。
「……言えない」
「何で杏子は良くて俺は駄目なんだよ! 同じダチだろ!」
「悪い、無理だ」
「あんだとー! 男女差別反対だぜ!」
押し問答状態の私達を見兼ねてか、そこで真崎さんがやんわりと口を挟んだ。
「男だからじゃなくて、あんただから駄目なのよ。ね?」
「! ま、真崎さん……!」
その言い方では勘の良い人間にはばれてしまうのではないだろうか。実際ほんの少し悪戯っぽい笑みを浮かべているところを見ると、多かれ少なかれニュアンスを匂わそうとはしたようである。
「俺だけ除け者かよ……!」
しかし鈍感な城之内は単なる仲間外れと受け取ったらしく、拗ねるように膨れる。そして、質問の矛先を真崎さんに変えた。
「ヒントくれ! 同じクラスの奴か!?」
「そうね」
「マジかよ! どんな奴だ!?」
「馬鹿」
「馬鹿ぁ? んな奴こいつと釣り合わねーだろーが!」
「全くもってその通りよ」
私は黙り込んで二人の会話を聞いていた。顔が熱いのは気のせいではあるまい。
その後も「私の好きな人当てゲーム」は続く。
「まさか本田か!?」
「残念」
「遊戯! 海馬! 獏良!」
「片っ端から男子の名前挙げるの無しよ。ハイこれでお仕舞い! 掃除も終わったし帰りましょ」
私は真崎さんに優しく腕を引かれて教室を出た。
「……誰なんだよ気になるじゃねぇか!!」
一人取り残された城之内の叫びが、放課後の廊下に響き渡った。
好きな奴って、
誰?
TURN END.
2011.12.25
Title by
確かに恋だった
鈍感な彼のセリフ より