「もう遅いし、そろそろ帰りますね。」

そう言って黒尾くんが立ち上がって荷物を持って玄関の方に歩いて行くのを見ていたが、どうしてかわからないけど身体は勝手に動いていて、気がついたら黒尾くんの背中に抱きついていた。

「えっ…恵さん?」

「帰らない…で。」

蚊の鳴くような声で黒尾くんにそう告げた。
こんなこと言って引かれてるかもしれない。
それでも今は一人になりたくなかった。
何かわからないモノに怯えていた。

「…わかりました。」

親に連絡してきますと言って一旦外に出て行った黒尾くん。
迷惑だったかな。嫌な女だと思ったかな。


何故かまた涙が出ていた。
別に一人になってるわけじゃないのに、どうしてだろう。


「恵さん!??どうしたんですか!!?」

電話が終わったのか黒尾くんが駆け寄ってくれた。
年下の弟みたいな存在だと自分で決めつけていたくせに、いざとなると頼って本当情けない。

「なん、にも…ないよ。ごめん、ね。」



そのまま黒尾くんは抱きしめてくれた。
私の不安を取り消すかのようにギュっと強く。

「俺…恵さんのこと、もっと知りたい。
でも、俺にはわからない大変さがあるから何も聞かない。
俺をこうやって頼ってくれることはスッゲー嬉しいけど、でもわかってやれない自分が腹立つ。」

泣いているのか、黒尾くんの声が少し震えていた。腕にもまた力がこもる。

「一人で抱え込むなよ…恵。」

「く、ろお…くん。」






「好きだよ、恵。」

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