弱虫ペダル | ナノ




数ヶ月前までは一緒に過ごしてて、お互い下らないことで喧嘩したり笑ったりしてたのに。
現実というモノは残酷だと初めて思った。

私達が大学生になってすぐはお互いソワソワして慣れない環境に戸惑いながらも必ず連絡はくれていた。
初めて離れるからこそ心配もしたけど靖友はちゃんと言葉もくれたし、私はどこか安心してたんだ。

「もォすぐ大会あンだよねェ」
「えっ、靖友出るの?」
「バァカ、ったりめェダロ!!」
「凄いっ!凄いよ靖友!!」
「っせ、褒めんな」
「ねぇ、見に行っても良い?」

好きにすればァ?なんて言いながらもスタートの場所と開始時間をしっかり教えてくれるとこは靖友の優しさだ。

たった数ヶ月会えないだけでも靖友に会いたくて仕方なかった私はその日を楽しみに待った。
それでも私は靖友に会うことはできなかった。

大会前日、靖友から怪我の為大会に出られなくなったことを伝えられていても立ってもいられなかった。
会いに行こうと思ってもプライドの高い靖友は必ず嫌な顔をするに違いない。
そう思って電話をかけてみても、メッセージを送ってみても返事が来ることはなかった。

もう終わってしまったのだろう。そう思っても諦めきれない自分もいた。

「靖友?どうして返事くれないの?」
「私何か気に触ることでも言った?」
「靖友、会いたいよ」
「会えなくてもいい、声だけでも聞きたいよ」
「しつこくてごめんね」
「怪我の具合はどう?また自転車乗れてる?」

初めは私が何かしてしまったのだと思ってメッセージを送り続けていたけど、しばらくすると靖友自身に何かあったのではないかと思って、しつこいと怒ってくれればいい。そんな気持ちでメッセージを送っていた。

靖友と連絡が取れなくなって1ヵ月くらいが過ぎた頃、知らない人から、荒北のことで話がある。とメッセージが届いた。
リプを返すと長くなるから電話でも良いか?との問いかけに大丈夫です。と返し連絡を待った。
本人から連絡が来ることがなかったのに急に何のことだろう。
靖友に何かあったんじゃないか。不安が募るばかりだった。

「初めまして、俺は金城真護。荒北の同期だ」
「あ、初めまして…話は聞いてます。それで靖友は?」
「えっと琉唯さんで良かったよね?」
「はい…」
「荒北だが、今は琉唯さんの返事に答えられない。と毎日自転車に乗っているよ」
「怪我は…大丈夫なんですよね?」

あぁ。もう完治している。その言葉を金城さんから聞いたのと同時に安心の意味を含めて涙が流れた。
よかった、靖友大丈夫なんだ。自転車乗れてるんだ。
返事を返せない理由なんてどうでも良かった。靖友が無事なら…。

「君からたくさん連絡が来てるのを見て俺から連絡させてもらった」
「あ、ありがとうございますっ!」
「いや、気にしないでくれ。ただ…」

その後金城さんの言った言葉の意味を私は中々理解できなかった。

電話を切った後もう一度頭の中を整理してみた。
怪我をした靖友は自分が未熟だから。とリハビリも必死に頑張って、また自転車に乗れる様にはなった。
でも、私とはもう会えない。そう確かに言っていたらしい。

理由は知らない。涙は何故か出なかった。
あぁ、やっぱり私達の終わりはここだったんだ。

「俺あんまこォいうの苦手だから言わねェけどヨォ…離れてもちゃんと連絡すっカラァ、心配すンな」
「琉唯チャン…その、好きだヨォ?」

あぁ、鮮明に覚えてる。
靖友が顔を真っ赤にしてる姿も、細い身体に抱きしめられた感覚も、レース中の靖友も。

なのに…



永遠に戻らない


ありがとう、大好きでした。最後に送ったメッセージにも返事が来ることはなかった。




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