裕介がイタリアへ旅立つ日、私は空港にいた。
金城を初め、総北自転車部メンバーも裕介の見送りに来ていた。
いつもと変わらず笑い合っているみんなを見ていると、もうすぐ裕介がこの場からいなくなってしまうことなんて私には想像がつかなかった。
「じゃあそろそろ行くッショ」
「っ!!」
来ないといいと思っていた時間がやってきてしまったようで、苦笑いしてみんなに告げる裕介を見てまた涙が出そうになった。
隣を見ると小野田くんは泣きじゃくって鳴子くんに慰められていて、私もこうやって素直に泣ければな。と少し羨ましい気持ちが芽生えてしまった。
「琉唯、行ってこい」
金城に言われて後ろを見るとみんなの視線が私に集まる。
2人で最後は話してこい。とみんなに言ってもらえてるように感じ、小さく頷いて裕介の元に歩いた。
「いよいよ…だね」
「あぁ」
「きっと大変だと思うけど…裕介なら大丈夫だよ」
「サンキューな」
言わなきゃ言わなきゃ。と思えば思う程私の心臓は高鳴り手が震えてくる。
「ちゃんと連絡するッショ」
「う、ん…」
「琉唯距離は離れても、俺はずっと琉唯のことしか考えないから」
「裕介」
「ん?」
もうこれ以上聞いてしまうと泣いてしまうような気がして裕介の言葉を最後まで聞かずに遮った。
「どうしたッショ?」
「あのね…裕介……私裕介のこと大好きだよ?」
「俺もだ」
「でもねっ!」
裕介の顔を見れない。見てしまうと折角決めた決意が揺らいでしまう。
「大好きだからこそ…離れちゃ辛いよ。私きっと我慢できなくなっちゃう」
「………」
「だから、ここで終わりにしよ?」
「琉唯……」
裕介の目を見て笑顔で言った。でも私は笑えていたのだろうか。
きっとすごい見苦しい笑顔だったに違いない。
裕介の顔も酷く歪んでいる。今ここで別れを告げてしまうのは私が臆病だったから。
少しでも裕介と楽しい時間を過ごしていたかった私の小さな欲が出たから当日までこのことを言えなかった。
ごめんね、裕介。
最後くらいはキレイでいたい「さようなら、裕介。これからもずっと大好きなのは裕介だけだよ」
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