■ three
(ギルドはハンソ朗さんが治安維持を目的に作ったばかりの組織、という設定。メンバーはハンソ朗・キリガ・三羽ガラスと数名のモブ。)



「……明の星のエリスを?」
訝しげに聞き返したキリガに、ハンソ朗は表情を変えること無く答える。
「ええ。宇宙海賊として世間を賑わせている明の星のエリスに勝負を挑んでいただきたいのです」
「何故だ? 明の星のエリスといえば、義賊として名を馳せているカードクエスターだろう。 他の厄介な悪漢たちを差し置いて態々此方から仕掛ける利点など無いのでは」
「だからこそですよ。彼女に盗みという非合法な手段ではなく、正当な手続きをして悪を裁いて欲しいと考えています。…確かに、今の世の中は力が正義ですから、力に訴える方が手っ取り早い。しかし、それでは堂々巡りにしかならない。全てを力で解決しようとするのではなく、法でもって悪を裁かなければ、本当の秩序ある平和は得られないでしょう」
ハンソ朗の言葉を受けて、キリガの隣を飛ぶイアンが言う。
「暴力に訴えるなんて、野蛮な者のすることですものね」
「…なるほどな。それで、俺は明の星のエリスに勝負を挑み、盗みを止めさせれば良いのか?」
ハンソ朗が頷く。ギルドで一番強いのがキリガであったため、彼に役目が回ってきた。ハンソ朗の知る限り、キリガは負け無しだった。今は知名度こそ低いが、そう遠くない内に指折りのカードクエスターとして世間に名を馳せることになるだろう。キリガの隣で彼の青い相棒が胸を張って言う。
「キリガ様が負けることなどありませんから首尾については心配はいりませんが、なんだか力付くで従えるようで蟠りがありますね…」
「口惜しく思いますが…今は仕方ありません。ですが、いずれは法によって弱者も守られる秩序ある宇宙を。その夢を実現する為に私達は、ギルドを立ち上げたのですから」
そう言ったハンソ朗の目は情熱に輝いているとキリガは思う。
キリガが師のダルファの元を出、噂に聞く究極のバトスピを求めて宇宙を旅していた途中に出会った熱い男。とあるカードクエスターとのバトルで目が覚めたのだと言った男の夢は、生半可な気合いでは叶えられないものだった。
『宇宙の秩序を取り戻す』
言うだけならタダだ。実際、現在の宇宙を憂いてそう夢を掲げた人間は幾人も居る。しかし、そのほとんどが夢半ばで脱落していく。まだ十数年しか生きていないキリガでさえ、それだけの数を見てきたのだ。それがいかに苦難の道かは自ずと知れた。だから、キリガがダルファの下に居たと知ったハンソ朗から勧誘を受けても、「どうせすぐに諦めてしまうのだろう」と考えて断った。しかし、結果的にハンソ朗は少数ながら賛同者を集め、理想実現のための組織『ギルド』を立ち上げた。キリガは、ここまで足を進めた者を見たことがなく、彼の熱意を思い知った。そして、手のひらを返すようかもしれないが、この男に賭けてみようかと思い直し、ギルドに入ったのだった。

キリガとイアンが早速自分達の宇宙船に戻ると、セーラー服を着た利発そうな少年が二人を出迎えた。
「お帰りなさい、キリガ、イアン」
「ただいま、ミロク」
「お留守番ご苦労様です。何事もありませんでしたか?」
「うん。ずっとデッキを考えて待ってたけど何もなかったよ」
ミロクの目線にまで高度を下げて優しい声音で尋ねたイアンは、余程ミロクが気に入っているのだろう。この間は少々過保護過ぎやしないか、と同じギルドメンバーである三羽ガラス達に呆れられていた。(尤も、イアン程ではないが、キリガもミロクに対して過保護だと言われたが。)
ミロクは、少し前にキリガ達がギルドに帰る途中で拾った迷子の少年だった。もう一人と宇宙船で旅をしていたのだが、事故に遭い離れ離れになってしまったという。少々我が強いきらいはあるが、責任感が強くて、バトスピが強くて、そして自分が宇宙で一番尊敬する仲間なのだと誇らしげに語ったミロクを見て、キリガも彼に会ってみたいと思った。基より、仲間とはぐれてしまった少年を放り出してしまうようなことはキリガには出来なかったのもある。そうして、仲間が見つかるまでミロクはキリガ達の船、流れ星号の一員となった。
「ねえキリガ、僕のデッキ見てくれる?」
「ああ。今度はどんなデッキを組んだんだ?」
「レイが使ってた赤白混合デッキを組んでみたんだ。アルティメットカードは無いから全く同じってわけにはいかなかったけど…」
「キミがはぐれたという女性だな」
「うん。レイはとても強くてかっこよくて…僕が一番尊敬するひとだよ」
頬を赤く染めて言うミロクには、『レイ』に対して尊敬以外の、例えば恋慕だとかそういう気持ちもあるのだろう。彼女の゛武勇伝゛をミロクの口から聞いたイアンは「粗暴な女性ですね」とあまりよい顔をしなかったが、キリガの方はミロクの恋を応援してやりたいと思っている。ミロクの語る『レイ』が彼をいかに大切にしていたかがわかったからでもあるが。それ以上に、この年下の友人を誠実な友情でもって応援したいとキリガは思う。キリガはミロクに対して、保護者として庇護の感情を抱きつつ、同時に後一、二年もすればキリガと並び立つような男になることを期待していた。
「今日は夕飯までまだ時間があるな。折角だから、そのデッキでバトルをしよう、ミロク」
「本当?! あ…でも、キリガ。仕事帰りで疲れてるでしょう?」
キリガの疲労を気遣うミロクに、キリガは優しく微笑む。その意図を読み取って、二人の様子を見ていたイアンが言った。
「たまには、キリガ様の好意に甘えてもいいんですよ。ミロク、貴方は些かしっかりし過ぎています」
「ほ、本当に良いのかな……それじゃあ、お願いするね」
窺うようにキリガの顔を見たミロクは、意思を固めたように真剣な顔になってデッキを取り出した。
やはりこの少年は秘めたものを持っている、とキリガは思いながらデッキに手を当てる。その感情は、奇しくもダルファが在りし日のキリガに抱いたそれと同じものだった。





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