■ 幼心に、貴方の隣に相応しくなりたいと願った。
◎未来のみじかいはなし。エミーゼルがヘタレたまま。
「大統領就任、おめでとう」
いつの間にか追い越していた身長。
見下ろせばいとも簡単に頭の旋毛が見える。
「出会ったばかりの頃のお前は、まだまだ青く頼り無さげであったというのに…年月というものは流れるのが早いな」
穏やかな表情で笑う彼も、見た目は変わらないままも、出会った頃より更に落ち着いた雰囲気を纏うようになっていた。
「フーカとデスコが修行を兼ねて魔界を見て廻ると言って出ていったのは何時だったか…。アルティナは大天使に就任して精力的に人間共を導いていると噂に聞く。あの男も頑張っているのだろうな、犯した罪は決して軽くはないが償えぬものはないのだから」
あの時共に戦った仲間達は、それぞれ自分の道を歩むために彼の下から去って行った。
ネモの奴も早々に他のプリニーと共に地獄から出荷されていった。
天国に行ったのか、魔界に行ったのかはわからないが、彼の言う通り贖罪のために今も頑張っているのだろう。
ボクもまた、魔界大統領となるために彼の下を去り、魔界で修行を重ねた。
「フフ……皆、時と共に変化していっているのに、俺とフェンリッヒは昔のままというのは…些か寂しいな」
彼の下に残ったのは、主君に忠実なる人狼の執事のみだった。
フェンリッヒは、ボクが彼に出逢う以前から彼に付き従っていた。
その主従という関係は、あの出来事を切っ掛けに『戦友』が付属され、端から見れば益々深まったようにみえる。
ボクはずっと大統領になるために必死で、他の皆どころか居場所の確定している彼に会いに行く事すら儘ならなかった。
皆が連絡を取り合っていたのかどうかさえも知らない。
唯一、噂だけがボクの情報源だった。
「お前達の噂を聞く度に、フェンリッヒと共に懐かしんだものだ」
大統領の座を勝ち取って漸く今回、彼の顔を見ることができた。
それ程永く離れていた。
「ヴァルバトーゼ…」
思わず、すがるような声で呼んでしまった。
情けないそれに、彼は気付いた筈なのに何も言わなかった。
「僕は、立派な大統領になれたと思うか?」
尊敬する父上のように。
あの戦いで皆を導いた貴方には、今の僕はどううつる?
返答がこわくて、本当に訊きたいことは言えなかった。