■ ドーナツの話
「あれ?ヴァルっち、何食べてんの?」
「ん、これか?」
「……ドーナツじゃん。ヴァルっち、イワシ以外も食べるんだ…」
「別にイワシのみを食べているつもりはないが…」
「ねえ、アタシにもちょうだいよ」
「話を向けておきながら聞かぬとは……まあ、よい。このドーナツは知名度は高くないが地元では素朴な味わいが人気を誇る個人経営の洋菓子店の物でな」
「食べていいって事よね。じゃあ、いただきまーす!」
「俺もイワシ伝に知ったのだがこれが中々に良い味を出していてな、噛み締める程に味わいを増してゆくのだ」
「うーん……何か余り味しないわね。ちゃんと砂糖とか入ってるの?コレ」
「その中でも特に気に入っているのがこのドーナツでな、飾り気のない素朴な狐色の表面に、仄かに色付いた中生地が食指を伸ばさせるだろう?舌に触れた瞬間に香る素材のままの甘さが阻害されぬよう、揚げ時間なども緻密に計算し尽くした結果もたらされた至高の作品でもある」
「ん?………うっ…何コレ、後味生ぐさっ……」
「何よりも、生地にイワシの擂り身を混ぜたのが良かったのであろうな。風味豊かなイワシの後味を味わうことができる、イワシ通の間ではイワシ羊羮と並ぶ程に有名なイワシドーナツだ」
「………………うん、そうよね。ヴァルっちがイワシ以外を食べるはずないもんね……」
「ん?もうよいのか?まだイワシドーナツは残っているぞ」
「いい、遠慮しとく……ヴァルっちが全部食べなよ…」


おわり!





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