■ Hot drink
◎グレンED後











「グレン先生、おやすみなさーい」
「おやすみなさーい」
「ああ、おやすみ」




子供たちが寝静まるのを見届けて、グレンは部屋を出た。
子供たちが静かになると、途端に教会は静寂に包まれた。
グレンの他に起きている者は居ないのだから、当たり前ではあるが。
冷えた廊下に靴音を響かせながら、グレンは自室へと足を向けた。


瞳狩りがなくなり、孤児の為の家という本来の役目を再び担った教会。
昼間は近隣の住人が手を貸しに来てくれるが、夜の教会には子供たちの他には、牧師となったグレンと、神の座より共に帰ったレフィしか居ない。
しかし、レフィの五感は徐々に回復していったがまだ完全には戻っておらず、グレンとしては仕事を手伝ってもらうよりも回復に専念してもらいたいと思っている。
今夜も、子供たちを寝かし付けるのを手伝うといって聞かなかったのを無理矢理ベッドに押し込んだのだが…




「お疲れさん、グレン」
「…レフィ」
グレンの部屋には、ベッドに腰掛けたレフィが居た。
「おまえな…寝てろって言っただろう」
「過保護すぎるぞ、グレン」
「…まだ、完全に戻ったわけじゃない」
「でも、もう日常生活に困らない程度には回復してきてるんだし、何も子供と一緒に寝ることはないだろ? 大丈夫、夜更かしはしないさ」
そこまで言って、レフィは笑みを浮かべた。

神の座から戻って直ぐは見馴れた笑顔がなく、珍しく素直に「嬉しい」と言ってくれてもレフィは常に無表情だった。
最初にレフィに感情が戻ってきた時、グレンは感極まって泣いてしまい、暫くの間レフィにからかわれた。
前を思えば、今のレフィはかなり回復してくれたといえるだろう。
しかし、元よりレフィには甘やかし癖があったグレンなのだ。
もうしばらくは休んでいてもらいたいと思わずにはいられないらしい。
加えて、テネス・ルーの光に侵され操られていたグレンを浄化するのに、星の瞳の力を使わせてしまった負い目も、それに拍車を掛けているようだった。

「それよりさ、グレン。廊下は寒いから、体が冷えたんじゃないか?」
「あ、ああ。少し、冷えたかもな」

グレンは少々狼狽えつつ答えた。
火の気の無い廊下は確かに冷えやすい。
今の時期等、それこそ少しの距離を行っただけで芯から凍えるかのようだ。
しかし、何時もはわざわざそのような事は聞かないのに、今日に限って言うとは…何を企んでいるのか。
そう、ちらりと思ったのだが、当のレフィはグレンのその狼狽を見て、不思議そうに思案したのみだった。
「どうした?」
「あ、いや…なんでもない」
疑ってしまった事を恥じ、俯き萎れたグレンを見たレフィは(理由は分からないが)何やら急に沈んだ彼に、予め用意してあったマグカップを差し出した。
同時にふわりと香った甘い匂い。
それに釣られ、グレンは顔を上げた。
「…ほら、今日は特別だからな。ちゃんと、ある程度は冷ましておいたから」
グレンは、『特別』を理解しかねたが、『冷ましておいた』とはグレンの猫舌の事を言っているらしい、と分かった。
温かい飲み物を用意してくれていたのは、体が冷えたグレンを気遣っての行動だろうとも。
「ありがとう、レフィ…」
レフィに礼を言い、グレンはカップに口を付けた。
グレンには少々熱めだったが、冷えた体には丁度良かった。
そして、舌に乗った甘さは。
「…ココア?」
「いや、ホットチョコレート。言ったろ? 今日は『特別』だって」
そこまで言われ、グレンも気付いた。
本日、2月14日。
この日付が意味することは。
「ッ…!!」
その意味を理解し、真っ赤になったグレン。
それを見てレフィは、満足そうに、嬉しそうに笑った。





Happy Valentine's Day!




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