■ 華を、愛でる
◎ミッコレの観察日記ネタバレ。









ザシュッ。

薄暗い校舎の中、銀色に煌めく(今となっては)彼の獲物。旧殺人クラブ部長、日野貞夫が所持していたものだ。どうせ持ち主が居なくなったのだからと、現在の殺人クラブ部長兼、坂上君の現飼い主(あくまでも現、だ。いずれ彼は僕が手に入れるのだから。)である倉田恵美が彼に与えた。その、スラリと長い刀身は、前持ち主の時よりも嬉々として肉に身を沈ませているように見える。
つまり、美しいのだ。



べちゃり。べちゃり。


次第に水音が混じってきた。もうそろそろか。少々名残惜しいが、撤収しなければ。あまり長い時間を掛けると煩い奴が多い。

「坂上くん、大丈夫ですよ。君に害を為す奴は、もう居なくなりましたから」

そう言えば彼はピタリと止まる。
…最初、倉田恵美にしかなつかず、コントロールできなかった彼。だが漸く僕にもなついて来るようになった。何時もの、まるで砂糖菓子で出来ているかのように甘味な坂上君を、更に甘く甘い優しさで包んであげればオチてくれた。更に更に甘く甘美になって。

「…あら、い…さん」

坂上君が零れ落ちそうな程に大きな瞳を潤ませ、見詰めてくる。
…ああ、また彼の足下の廃棄物を見て狼狽えているのか。何度見ても慣れないのですね。他の奴なら殺したい程鬱陶しいが、彼の場合逆に愛おしいと感じてしまうのだから不思議だ。恋は盲目と言うけれど、それは恋愛時に脳から分泌されるという快楽物質が引き起こす現象だろうか。今度実験してみることにしよう。

「大丈夫です。さあ、帰りましょう。坂上君」

彼の手を取る。線の細い、華奢な手。先程まではとても丈夫で鋼の様に見えていたのに、実際は、軽く握るだけでも折れてしまいそうだった。









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