◎大陸一美男な姫と、その友人






御座なりにスプーンで紅茶をかき混ぜながら、友人が言った。
「なぁ、我が最愛の友よ、私の悩みを聞いてはくれないだろうか?」
覇気のない、だらけた表情。加えて、何時もと些か異なる劇台詞染みた口調。
「ふざける余裕があるのなら特に聞いてやる必要はないな」
「…つれないね。おまえの唯一の友である私をそんな冷たくあしらうとは。だから好いた相手にもアッサリ振られてしまうんだ」
「振った本人がよく言う…」
顔と性格だけなら大陸一の美男と言われるこの友人は、性別に問題があった。あり過ぎた。精悍な見た目をしているわけではないが、女性好みの中性的な愛らしく凛とした顔立ちでありながら、バランスの整えられた引き締まった長身。鮮やかな赤色をした絹のような髪。加えて、男女分け隔て無く誠実であろうとする性格。女性にとっての理想男性を体現したかのような人間なのだ。性別が、女であるということ。それだけを除けば。
「…君が急に無口になるのは、考え事をしている時だ。初恋が散ったときの記憶でも掘り起こしているのかな?」
「お前が…いっそ、男であったならと思っていた」
「へぇ…?」
友人がくつくつと笑う。
俺たちは異性という間柄であるが、結ばれることはない。こいつが、そう言ったからだ。ならば、せめて。
「お前が男だったなら、その隣は永久に俺のものだったのに」
「凄い自信だ」
「違っているか?」
「いや、その通りだよ。女の隣は番(つがい)以外にありえないが、男の隣はそうでないこともある」
私が男だったなら、その隣は君しか有り得なかっただろうね。そう、此方を舞い上がらせるような事を言う。
「私はね、おまえとは対等でいたいんだ。おまえは番になりたいと言うけれど、それは私からしてみれば知らぬ男に足をひらく屈辱よりも余程つらいことだよ」
「そういうつもりでは」
「君がそんな人間でないということは知っている。けれど許容することはできない、というだけさ」
口許を仄かに上げながらティーカップに口をつける。女性の様に繊細な指使いでありながら、その姿は麗しき王子様である。この世界はなんとも理不尽なのか。こまかな仕草は女性のものであるのに、容姿が、それを許さない。
慰めになるかは分からないけれど。カップをソーサーに置いて、友人はそう前置きをした。
「私は、おまえのものにはならない。けれど、私の心を占めるのは、この先もずっとおまえだけだと言い切れるよ」
そうか、とだけ呟いた。友人の婚約が決定している今、その言葉は、慰めどころか俺を傷付ける刃である。期待を、してしまう。結ばれないと分かっていながら。目の前の友人は、解っていて『慰めた』のだ。俺が、想いを風化させないように。移らせないように。この一瞬で、幾重にも縛り付けたのである。嗚呼、なんて意地の悪い。






その鎖が心地好いと思う自分も、密かにいたのではあるが。
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