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最後の一匹を捕喰して、任務は終了した。あのサングラスの男は既に跡形も無くオウガテイルに喰われた後で、真っ赤な血と、あとは放射型の遠距離神機だけがフィールドに転がっていた。もう一人の同行者の男が、その神機を拾った。
「おい、帰るぞ」
そう言い捨て、同行者の男は歩を進めた。自分も後を追う。同僚が死んだというのに冷静な男だ。男の神機と死んだ男の神機を担いだ背中を見て思う。年齢からして鍛えられた肩幅をしているが、決して大きくない背中だ。いったいどれだけの仲間を見送ったのか。新人の自分には知る由もないが、自分自身もこれから多くの命を見送ることになるのだろう。そして、いつかは自分も。足早に男の隣に並ぶ。
「……何だ」
見られていることが気に触ったのか不機嫌な声音だ。それには答えず、視線を輸送機にやる。この隣の男に、せめて、自分を見送らせることはしてやりたくないと思った。

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リンドウさんが居なくなったアナグラは、何故だか急に閑散としていて、皆の心を更に落ち込ませているようだった。表面上はなんでも無さそうに振る舞ってはいるが、サクヤさんもコウタもアリサも…そして、隣を歩くソーマも、ひどくぽっかりと気持ちに穴が開いたような顔だった。
「……寂しくなったな」
「………」
「あの人が居なくなってしまって」
「…うるせえよ」
こちらに目線を向けないソーマの横顔が、泣いているように見えて。思わず手を伸ばした。指の腹で、見えない涙を拭ってやる。初めて触れた彼の肌は、とても熱かった。
「……何してんだ」
「……何となく」
不器用なこの男を、慰めてやりたかったのかもしれないと思った。勿論、声には出さなかったが。ソーマはひとつ舌打ちをして視線を再び前に戻した。
「自分で出した命令だろ……テメェが守らなくてどうすんだ…」
ぼそりと呟くように言ったそれは、もしかしたら、不器用な彼なりの弱音だったのかもしれない。『お前は死ぬな』、そう言っているように聴こえたから。

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「何を考えてる」
居住区廊下で唐突に問い掛けられた。何を考えてる。何も特別なことは考えていない。至っていつも通りの思考だ。
「お前は……一人じゃねぇんだ。俺に…仲間に頼れ」
あの一匹狼だった彼の口から、そんな言葉が飛び出すとは。からかってやりたかったが、彼の目がやけに真剣にこちらを見つめてくるものだから、やめた。それに、彼の瞳を見ていると、何故だか恥ずかしさが込み上げてきて冷静に言葉が紡げそうになかった。
取り敢えず。何を心配しているのかは知らないが、俺は、お前を置いていくつもりはないよ。流石に口に出すのは照れ臭かったので、拳で小突いて勘弁してやった。

「……心配してくれる仲間が居るっていうのはいいですよね」
大きな琥珀の目が見上げて言う。やっぱり照れ臭かったが、そうだな、と返しておいた。

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力任せに壁に追い込まれる。派手な音を立てた背中が痛んだが、目の前の蒼い瞳に射貫かれて一瞬身体が竦んだ。その隙をつかれ、両手首を捕らえられ、逃亡は困難になってしまった。
「……怒ってるのか?」
彼は何も言わない。ただ、こちらを射殺さんかのように見詰めるのみ。
「…言ってくれなきゃ、分かんないだろ」
「………テメェには…言いたいことが沢山あるが…」
口を噤む。有り過ぎて、逆に口に出ないのだろう。彼が何が言いたいかなんて、本当は理解している。
「死んでやる気は無かった」
蒼い瞳を真っ直ぐ見て言う。当たり前だ。まだ、人生の半分も謳歌していない。尊敬する人の為とはいえ、自分の命を擲つつもりなどなかった。
「最初から、リンドウさんを連れ帰るつもりだった。でも、確証は無かったから、糠喜びさせたくなくて黙ってた」
あの人が戻って来れるかは、全て、あの人の意志に掛かっていた。ハンニバルとの感応現象が起こった時に感じたあの人の意識に希望を見出し、賭けた。非科学的かもしれないが、それでも、あの時確かに希望が見えたのだ。結果として、あの人は乗り越え、このアナグラに帰ってきた。
「それに、俺は、お前をより先に死んでやるつもりはないから」
お前の隣で、お前を看取ってやるつもりだから。
狼狽えた蒼い瞳に得意になりながら、緩んだ拘束を振り切って、彼の頬を撫でた。久しぶりに触れた彼の肌は、やっぱり熱かった。

06/06 09:17 * 0 


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