最近、志摩の様子がおかしい。頑なに俺の事を避けたり、いつもは必ず右側に居るはずなのに、今では子猫の後ろにべったりとくっついて離れない。志摩、と一言かけようとでもすれば小さな悲鳴をあげて後退りしていき、いつもの機嫌の良い笑顔は綺麗に封印されている。正直、普通の志摩は気持ちが悪い。これが望まれし姿なのだろうが、心の中で引っかかってしまう。

「…子猫」
「はい?」
「アイツ、何やねん。不審すぎるやろ」
「…はは…僕もちょっとあからさますぎる思いますえ」
「…。ほんま、人の気持ちも解らんと…」

―――何故こうなってしまったのかは解っている。これは全て自分が引き起こしてしまった事なのだ。一年前のあの日、俺は志摩へと詰め寄った。悪気はなかった。ただそれは嫉妬からうまれたものだったのだが、志摩には通じなかったようで。
仕方ないと思う反面、やはり少し傷付いている。それが顔に出てしまっていたのだろうか、子猫丸がくすりと笑った。

「…坊、やっぱり寂しいんやねえ?」
「!?は!?」
「そらそうやわ、恋人にそないな距離あけられたら誰だって「やややや喧し!!い、言うてええ事と悪い事があるやろ!」
「照れ屋さんやねえ坊は」
「誰が照れ屋や!!」

――そう、今子猫丸が言った通り俺と志摩は付き合っており、恋人という関係なのである。男同士なのは百も承知だ。それでも俺たちは惹かれあって、今に至っている。もちろん同じ寮に住む子猫丸にだけは隠すだけ無駄だと思い、口外してある。

「…で、子猫。お前は志摩からなんか聞いとるんか」
「聞いてるて…何をです?」
「明日の事、とか」

口ごもる用にそう呟くと、子猫丸は あぁと口を開いた。現在志摩が心を開いているのはもはや子猫丸だけであって、奥村は愚か奥村先生でさえもを怖がっている。理由は同じだ。俺らは去年の明日――バレンタインに、志摩にチョコを貰うべく詰め寄った。
奥村と奥村先生が志摩の事を好きなのは知っていた。その頃の俺は志摩と付き合っておらず、一方的な恋心を抱いていた。バレンタインは女が男に贈るイベント、どう足掻いたって志摩が俺にチョコをくれるなんて不可能だと思っていた。そんな時、奥村と奥村先生が"志摩にチョコを貰う"という作戦をたてており、初めは気にしないでおこうと留まったのだが 志摩に近づいていく二人を見て我慢の限界。嫉妬心と劣等感とでも言おうか、俺は志摩に急な口付けをしてしまったり―――とにかく、俺を何とも思っていなかった彼にとっては最悪の一日となってしまった――というわけだ。

子猫丸が場を繋ぐ。天に向かってピンと人差し指を伸ばすのは、彼が発言する時のクセであった。


「確か『バレンタインなんてなくなってしまえばええんやー!』と、後は――」



そして紡がれた言葉に、俺は駆け出していた。


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