ああ、もう嫌になる。
どこへ行っても目に入るのは無数のハートや赤い文字。
デパートやコンビニの1コーナーには派手と言わんばかりの飾りつけが成され、これから来る行事を祝福せんとばかりにそこだけ異空間になっている。

この時期は嫌いだ。クリスマスだとかお正月だとかそんなイベントの方が俺にとっては可愛いものだ。
いらっしゃいませ、と笑う女店員さんが可愛い。俺の至福はそんな所までかも知れない。


「…バレンタインなんかなくなってしまえばええんや!」


そう、それはこれから訪れるという2/14という日のお話であった。





「誰や!世の中ハートとチョコレートで埋め尽くす日なんか考えたん!そもそもバレンタインって女の子が俺ら男に愛を語る日やないの!?」
「し、志摩さん…ちょっと落ち着いて」
「落ち着けるわけあらしまへんやろ!俺は別に女の子から愛を語られへん事を嘆いてるんやないんや。むしろそんな事もうどうでもええんや。なぁなんでなん、なんで俺は毎年こんな」
「解りました、解りましたから志摩さんちょっと落ち着いて!」

ついつい熱くなって変な汗が噴きでる。隣に居た子猫さんがこうやって止めてくれなければ、おそらくきっと俺は今頃壊れてしまっているだろう。もはや今俺の面倒を見てくれるのは子猫さんしか居ない。坊も若先生も奥村くんも、柔兄も金兄も今の時期は皆俺の敵や。近付きたくもない。彼らは今、正常ではないのだ。そう、綺麗に言葉を選んだとすれば――異常だ。


「なあ子猫さん、俺はいつになったらこの日から解放されるんやろか」
「…せやなあ、いつか慣れるんやあらへんかな?」
「っ、ななな慣れ!慣れほど恐いもんはあらしまへんえ!!あぁもうどないしよ、俺のバレンタインはずっと女の子に恵まれんと野郎ばっかりがたかってきてその内『バレンタインってこういうイベントやろ?』とか言って当たり前になってもうて笑顔で野郎に「ししし志摩さん!!」

青い顔をしてマイナスな言葉ばかりを並べる俺の肩を子猫さんが持って揺する。ああ、ホンマダメや。俺の未来ピンクどころやない、むしろ真っ黒や。

「……なぁ子猫さん」
「? どないしたん?」
「…なんで皆俺にたかって来るんやろか。女の子やったら他に山ほどおるし、何より杜山さんとか出雲ちゃんもおる。やのになんで俺なんや。男にチョコなんか貰うて嬉しいん?」

率直に自分の気持ちをぶつける。俺は別に、男も振り向くほど顔がかいらしいとか雰囲気がやらかいとかそんなんやない。変なフェロモンやって出してる覚えはあらへんし、色気やってゼロ、皆無や。やのに、何で。

すると子猫さんは少しだけ困惑の表情を浮かべうーんと呟いた後、俺から目線を反らしながら人差し指で頬を掻いた。一つ息を置いて子猫さんは俺へと視線を戻し、ゆっくりと口を開いた。


「…志摩さんの事が好きやからやないかな」


「…………へ?」




耳に入った言葉は、俺にとってあまりにも衝撃的すぎた。




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