(※ちょっとだけSQネタバレあるかも)
しゃく。
白くなった地面に足を踏み入れる度、重力で雪の質量が増して足元から音が鳴る。
はあ、と一つ息を吐いて自分の歩いてきた道を見ると、何も汚されていない白に自分の足跡だけがクッキリと残っていた。
どんだけ歩いたんやろか。
自分の足跡をつつ、と目で追ってみるが、盛り上がった雪のせいですぐにぷつりと見えなくなる。
(……足、冷た)
雪用の長靴を履いているわけではない俺の足は重力に従って徐々に雪の中へと埋もれていき、きん、とした冷たさが足の中へと侵入してくる。
後ろを見ていた顔をくるりと戻し、またしゃくしゃくと宛もなく歩く事を続けた。
――――
――…あれから何時間経っただろうか。
いや、もしかすると何分かしか経っていないかもしれない。陽が沈む事が極端に早くなった冬は、例え過ぎる時間が短かろうと孤独という時間をより一層長く感じさせる。
「…ここ、どこやろ」
言葉を放つ度に現れる息は、先ほどよりも白くなっていた。
スタートからまっすぐ歩いていると言うのに突き当たりが無くて、立ち止まる。京都はまっすぐに整備された道が多い。だから、帰ろうと思えばまたこのまままっすぐ歩けば帰れるのだが、そのような気持ちにはなれなかった。
もう家には、あの場所には帰りたくない。そう思っていたから、ひたすら歩いてひたすら遠い所へ行きたかった。
ポケットから軽快な音楽が鳴る。これで何度目だろうか。数えるのも、もう面倒くさくなった。着信はきっと柔兄とかその辺やろ。いつの間にか居らんようになった俺をきっと柔兄は心配している。
でも、俺には。
俺には帰る場所が無いんや。
あそこは――"志摩"は、俺の居るような場所やないんや。
五男として、坊と同じ歳に産まれた俺は この世を見てない時から生きる定めが決まっとった。自分で人生を選べる権利も無く、いつでもどこでも何かに縛られとった。それが"何"かなんて、小さな俺には解ってへんかった。
俺は産まれてしまった出来損ないや。ちょっとでも自分らしく生きたくて、自分自身に歯向かって夢も持たず目標も持たず嘘にまみれて生きてきた俺なんか、誰も必要としてへんねや。
解ってた。そんな事解ってた。でも、
でも、きっと、
こうやって歩いてきた道をつい振り返ってまうのは
携帯の電源をまだ落としてへんのは
きっと、
一人が怖いからなんや。
誰かに必要としてほしくて
誰かに理解してほしくて
誰かに甘えたくて
誰かに認めてほしくて
「ホンマ…情けない男や」
頬を伝わって零れ落ちた涙が、雪をじわりと溶かしていった。
名前を呼んで
("俺"が、消えてしまわないように、)
20111225 黒豆
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