『廉造、問題や。11月17日は何の日か答えてみい』


――…なんて、毎年この時期になると満面の笑みで問いかけてくる兄の姿が、今年はなかった。
その理由は、四日程前の仕事の際に悪魔に大きな負傷を負わされ、未だ意識が無く寝たきり状態になっているからだった。

毎日のように小さな事でケンカし、言い争い、意地悪をしてくる、いつもなら邪魔だと思うようなそんな相手がもう四日も居ない。賑やか過ぎる朝食も、毎朝蹴飛ばされ起こされる日課も、なくなってからもう四日が過ぎた。
ゲラゲラと笑う声も、俺だって理解できるような馬鹿な発言も全てが愛しかった。


「…金兄、」


ぽつ、口をついた名前はきっと、会いたいだけのその衝動。
自分が内心寂しがっている事に驚いて、慌てて両手で口を塞ぎ誰かに聞かれていないかと辺りを見回す。特に金兄に聞かれでもしていたらたまったもんじゃない。

――そう思ったのと同時に、金兄に聞かれるハズがない事を認識しギュウと、まるで誰かに掴まれたように胸が苦しくなる。
与えられるのは、どうしようもない孤独だけだった。

会いたい。

ただそれだけの、そんな気持ちがどんどんと心に募って涙が浮かぶ。視界が滲んで、瞬きをすると同時に溢れた滴が零れ落ちた。


「っ、あほぉ、意識不明てなんやねんっ、」

もしもこのまま寝たきりになってしまったら?
もしも、
もう目覚める事がなかったら?

まだ伝えてない、もっともっと伝えたい事がいっぱいあるのに。

そんなん、そんなん。


「俺はっ…、許せへん、許せへんからな……っ!」

生きて。
そうじゃないと俺は、きっと壊れてしまうから。

そうじゃないと俺は、




「人様を勝手に殺すな、こんド阿呆」





殺風景な見慣れた景色に、黄色の絵の具が混じり込んだ。



なくなってから気付いたの


「金、に…」
「なんやそん顔。えらいぶっさいくやなぁ」
「っ、阿呆、どんだけ心配して…っ!」

「……、
ただいま、廉造」


20111125 黒豆

ホントは11月10日くらいに上げる予定でした。ここでですが金兄お誕生日オメデトウ!

金兄は、廉造が心配で気力で帰ってきたとか口が裂けても言えないそうです。

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