冷えて感覚も無くなった指先に はあ、と一つ息を吐く。その息が白い水蒸気となって空気中に出ていったのは、赤くなった指先に息が触れるのとほぼ同時の事だった。
盆地である実家、京都もこの時期は相当寒かったが東京もなかなか冷え込んでいる。一つ違うとしたら、雪が積もったり降ったりという事がこちら東京は無いに等しい、というところだろうか。
はあ、と出来るだけ指先が暖まるように長い息を吐く。見上げた空は、狭かった。
(…あかん、寒い)
ぶる、と足の先から頭の先まで寒さが駆けのぼるような衝動に襲われて、思わず拳を握る。
―――とりあえず、一息つけるような暖かい場所へ行きたい。
今すぐ炬燵に入りたい。
大好きなココアを飲みたい。
そんな事を思うと、無償に寮が恋しくなり一刻も早く帰る場所に帰ろうと出来る限り足を速めた。
「志摩、」
―――すると後ろから急に呼び止められて、振り返ろうとしたその前に左手に感じたのは、
「…坊?」
彼特有の、温かさだった。
「何しとんや、こんな所で」
「何って…買い物ですけど、それにしても奇遇ですねえ」
「……こんな冷たい手しよって、買い物も何もあるかい」
「へ?坊、今何か言わはりました?」
「…。用事終わったんか?せやったらもう、帰るえ」
「あ、用事はもう終わりましたけど――――ちょ、坊、」
ぐいぐいと引かれる手は離される事なく、握られたままで。
彼の温かい大きな左手に握られた俺の右手は、ホカホカと熱を持っていく。俺の体温を奪うかのように、彼の手のひらが少しずつ冷たくなる。
「ぼ、坊、何怒らはってるんですか、俺なんかしました?」
「……怒ってなんかあらへん」
「ほななんで、」
手、と言葉を繋げると、少し黙ってから彼はこうしとったら寒ないやろ、とぶっきらぼうに言い放った。
――――あぁ、そんな優しさが俺はきっと、
「…せやったら、もっとゆっくり帰りたいですわ」
ぽつりと呟くと、触れていた彼の左手が応えるように少し力をました。
それきり会話はなかった
(君の手が温かかった)
20111023 黒豆
<祓!>
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