「坊、もし俺らに子供が出来たら垂れ目やろか?それともつり目?」

ふとそんな事を思い、問いかけてみる。

もし俺と坊の間に子供が出来たなら。
男と男という関係を取り払って、子供がつくれるような機能をつける事が出来たなら。
ずっと、ずっと前から夢見てきた事だ。

もしも俺が彼との子供を産めるような、そんな夢でしかあり得ない日がくれば、そうすれば跡取りにも何にも困らず一緒に暮らし、これからもいろいろな想い出がつくれるというのに。
愛する人との大切な大切な愛の結晶を、宝石のように扱う日がお互い、お互いでない人と―――
そんな日がいずれ来てしまうのは、目に見えている。そうとしか、進む道は無いのだ。今の関係を死ぬまで保とうなんて、そんな事出来るはずもなければ言えるはずもない。もし、坊もそれを望んでくれてたとしても、きっと言葉には出来ないであろう。

愛した人が同性だった、というのは何故認められないのだろうか。
神は何故、片方の性にしか生命をつくりだす術を与えなかったのだろう。
何故男は、与えるだけで授かる事が出来ないのだろうか。何故俺は――――男で産まれてきたのだろうか。もしも俺が女だったら。もしも付いているものが違ったなら。未来は変わっていたかもしれないと言うのに。

見えている一歩先の現実に、俺らはなかなか足を踏み出せずにいた。

そんな俺の気持ちを察したか察していないか、坊は俺の吐いた言霊に自分の言霊をさらりと被せてきた。

「阿呆ぬかせ。俺らに子供なんかできたら天と地がひっくり返るわ」

その通りだ。解っている。解っているから、飲み込みたくないのだ。
コウノトリが赤ん坊を運んでくる、だなんて言い伝えがあったが本当にそうならどれだけ嬉しい現実だろうか。目を細め、坊の言葉に明るく笑ってみせる。

「俺が女やったら、良かったんですけどね」

俺が彼を好きになってしまったその時から、そう幾度となく悔やんだ。唇をいくら塞いでも、体をいくら繋げても、その想いは消える事なくどんどんと大きくなるばかりで押し寄せる快楽と幸せは苦しみと現実を突きつけてくるばかりだった。

坊との子供が欲しい。
本音を直球で伝えたとすれば、彼はどのような顔をするだろう。それとも呆れたように俺を遠回しに突き放すだろうか。それでも俺は、


心の中の気持ちを少しずつ、言葉にする。
それしか伝える方法が無いのなら、例え自分が傷ついてしまうのが目に見えていても、言葉にするしか他無いのだ。
いずれこの関係に終止符を打って、何もかも忘れてしまう前に。


「俺、坊との子供が欲しいんです。他の誰でも無い、坊と俺の子供が」

「俺と坊でつくりあげて、大切に育てて、」

「そんな事、叶いやしまへんやろか」


叶いっこない。

そんな夢を追いかけるのは無意味なのだろうか。
離れたくないその一心で、こんなにも何かにすがる自分は無意味と化しているのだろうか。

たった一つ、彼といつまでも繋がれる証が欲しいと

ただそれだけを求めているのに。




欲しいものは一つ



(たった一つなのに、どうして手に入れられない)


20111010 黒豆
         <祓!>

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