好きが増えて、好きが募って。
気付けば彼の事を目で追うようになっていて、何よりも誰よりも虜になっていた。
彼と些細な事でも話したい。彼の笑顔が見たいと、彼に触れたいと欲が出る。
彼の目が俺を映したその時、心にいっぱいの幸せと喜びが募ってずっとこの時が続けば良いと思うのだが―――生憎現実はそうなってくれなくて。

「…お前、また考えとるやろ」
「!…っ、あ、はい」

そう、彼には想っている人がいる。それも、彼が産まれた時からずっと。
―――つまり彼の瞳の奥は、いつだって俺を映さないのだ。

それを確認する度に俺の中の幸せは崩れていって。
俺だけを見てほしいのに、俺が彼に抱いている気持ちを彼は俺以外に抱いている、のだ。
ズキ、胸の奥が傷んで口から何かが出そうになる。言葉にならない言い様のない気持ちが、涙となって零れ落ちてしまいそうなそんな――――


「…坊、何して、」


―――気付けば俺は、

「志、摩」

好きや、好きなんや。
この気持ちが伝われば良いと、どれだけ願った事だろう。
溢れでる想いは止まる事を知らなくて、どんどん溢れでるばかりで、自分を抑えれなくなって。

彼の手首に自分の手のひらを這わせ、抵抗するなとばかりに壁に押しつける。その手首は俺の手のひらが余るほど細く、それでも弱々しくは無かった。

「…離してください」
「嫌や」
「なんでですのん?」
「嫌やからや」
「…理由になってまへんよ」

苦笑いを溢しながら、志摩は少し抵抗する。それでも俺の力には敵うはずもなくて、固定した腕はびくともしなかった。

好き。そんな気持ちが溢れる。
俺だけを見てほしい。俺だけを映してほしい。なのに、何故、何故君は。

涙が落ちそうになったのを悟られないように、噛み付くように志摩の唇にキスを落とす。それに驚いたように目を見開いた志摩が、嫌がるように体を引き、声にならない声で何かを伝えようとしている。それを俺は理解しないように耳を塞いだ。

「っ、ぼ、何す…!」

俺の気持ち知ってはるでしょ、そう志摩は続ける。けれど、その言葉は俺には聞こえない。
俺やって、お前が好きなんや。お前が誰かを好きなように、俺やって誰かが、

お前の事が、


「―――好きなんや、志摩の事が、他のどんな誰よりも」


そう告げた時の彼の顔を、俺が忘れる日は一生来ないだろう。




重ねた唇の温度差


(こんなにもこんなにも熱いのに、全く熱を感じない)



20111007 黒豆
         <祓!>

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