『俺は、お前が思うほど出来たやつやない』


ぽつり。彼の唇がそう縁取ったのを、今でもしかと覚えている。

その時の彼の目は、今まで見た事が無いほど澄みきっていて、まるでその奥まで見えてしまうんじゃないかというくらいまっすぐで、悲しげで――冷酷な目をしていた。

ひっそりと下げられた眉がまるで全てを物語っているかのように見え、俺は何も言えずに、ただ小さく息を吐くだけだった。


俺は無力だ。
何かを背負って生きている彼に、なんの言葉もかけられない。ただその背中を見続けるだけで、俺は精一杯なのだ。
ヒュウ、と冷たくなった風が吹く。それはまるで体の芯を冷やしてしまうような、そんな風だった。

「出来た人間、か」

それはどのようなものなんだろうか。未だに検討はついていない。けれど、確かにあるものだという事は解っている。ただそれに、まだ辿りついてはいないだけであって、

「…そんな人間、何処にもおらしまへんのに」


遠い遠い空を見上げる。
一筋のまっすぐな雲が、広い空を半分にわけていた。



冷えた唇は真実を語らない



(コーティングされた言葉なら、いくらでも語れるというのに)



20111002 黒豆
         <祓!>

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