彼を見ていると時折、胸がぎゅう、と苦しくなる。理由は一つではなくたくさんあるのだが、その内の一つに俺が彼の事を、一人の人間として好きだという理由があった。彼が好きで、彼の笑顔を見る度に、彼が俺を呼ぶ度に胸がこう…なんて言うのだろうか苦しくなってドキドキと心臓が脈打つのだ。

そんな俺の片想いもつい先日、本当にごく最近――、長い行程を経て終わり、俺らはめでたく付き合う事になった。相手が男だとか立場が違うだとか、俺は良いとしても彼は次期明蛇頭主なワケで、つまり子孫も残さないといけないワケで―…とたくさんの壁もあったがなんとか乗り越えた俺――もとい俺ら、凄い。良くやった。そう自分を褒めてやる。付き合う成り行きは自分からではなく彼から好きだと告げられ、戸惑う俺にそりゃあもう誰でも惚れてまうような男前な言葉で胸をざっくりといかれたワケだが(もちろん、良い意味で)、長い長い片想いだった為か今俺はこれ以上無いってほどの幸せに包まれている。

…だが、幸せとは裏腹に俺の中に――いや、俺らの間に困惑や戸惑いもちゃんとあって。お互い産まれてからずっと一緒に生きてきた人物だ。離れる事も無ければ会いたいと思った事も無く、良い意味で言えば素晴らしい事ではあるが悪い意味で言えばそう、「恋人」として「どう接すれば良いのか解らない」のだ。

「志摩、帰るえ」
「! あ、はい!」

例えば今。
帰ろうと誘われたのは「恋人」だからとかそんなんではなく、今までどうりの普通の事で、変わった事といえば何一つない。同じ寮に住む子猫さんもこの時は一緒に居るし―――というかいつも一緒なのだが―――二人きりという時間がまるで、ない。
これって付きおうてるって言うんやろか、と坊には聞こえないよう小さく息を吐いた。前を歩く坊をパタパタと追いかける。所定位置の坊の右側に並んだ時に、いつもとは違う異変に気がついた。

「…あれ、坊、子猫さんは」

そうだ、いつも先にいるはずの子猫さんの姿が無い。それなのに坊は子猫さんを待とうともせずズカズカと正門に向かっていた。もしかして子猫さんと坊、ケンカでもしたんやろか?そないやったら三人部屋やし、めっちゃ重い雰囲気流れるんちゃうやろか…

「子猫は若先生と話あるから遅なるて言うとったから、ほな先帰るて言うた」
「あ、あぁそうなんですか?」
「せや」
「あぁ〜…はは」
「……」
「……」

あかん、気まずい。気まずすぎる。三人で帰る時の沈黙は至って平気であるし、むしろいろいろな発見が出来るから好きであったのに、なんでこんなに気まずいのだろうか。今になって子猫さんの存在に感謝する。というか、若先生とのお話がさっさと終わって戻ってきてはくれないだろうか。とりあえず何か話さないと、とネタを考えてみるが何も思い浮かばなかった。自分の毎日を生きる適当さに初めて嫌気がさす。

「志摩」
「ひゃ、はいぃい!?」
「…なんちゅう声出しとんや、お前は」
「っ、いや、ちょっと考え事を…はは〜…」
「……。お前、今日は何も無かったんか」
「へ?今日…ですか?いやあ、至って何もあらしまへんかったですけど…」
「ほな昨日のアレはなんや」
「き…昨日…?」
「昨日お前、女子に囲まれとったやろ」
「え?あ、あぁ、アレですか?アレは―――…って坊、なんで知って、」

祓魔塾は人数も少ない為坊と俺は同じクラスだと言えるが高校はそうはいかなかった。俺は坊とクラスが三つほど離れていたし、ましてや俺の行動など知るはずもないはずなのだ。事実昨日は女子に囲まれ、皆でカラオケに行こうと誘われた。それを何故彼は、

「…知っとったらアカンのか」
「い、いやそういうワケや」
「………。


知りたい、やろ。恋人の、してる事くらい」

クラスが同じワケやないんやし、と坊はモゴモゴと告げた。
そんな言葉に俺は目を見開く他なくて、反対に嬉しくて嬉しくて、頬が緩みかけていた。

「な、そ、坊、」
「ほら、はよ、帰るえ」

坊も相当恥ずかしかったのか、横顔をチラリと見やると耳まで赤く染まっていた。ああ、なんか、まだ実感わけへんわ。完全に緩んだ頬を笑顔へと変えて、坊が差し出した手を握った。



したかった事は同じ




(で、アレは何やったんや)
(え、っとカラオケに…)
(行くんか)
(……行きません)


20111001 黒豆

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コハク様リクエストありがとうございました〜!遅くなってしまい誠に申し訳ありません…!!
馴れ初め話、という事で書かせていただいたのですがとりあえず長すぎますね…!読みづらくなってしまい申し訳ありません(´;ω;`)そしてこれ馴れ初めって言うんですかね…!違いますよね…!もっとどうすれば良いか解んない二人とか書きたかったんですがあるぇ?になっちゃいましたorz
コハク様につき苦情、お持ちかえりは可能ですので…!

それではリクエストありがとうございました〜!

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