「別れへんか」


そう、俺が告げた時の志摩の顔は儚く、脆く崩れてしまいそうだった。
昨日一昨日まで至って普通で恋人としてキスも交わし、一週間前は体まで繋げた。急に距離を置いたけでも、突き放したわけでもない。そんな俺から告げられた言葉に志摩はしばらく理解が出来ていなかったようで、フリーズしたかのように固まっていた。

「は…はは、冗談キツイわあ、坊」
「冗談なんかやない、本気や」

すでに垂れた目が苦しみによっておちていく。嘘やろ、と小刻みに肩を揺らす志摩の目をこれでもかと見つめた。視点の定まらない志摩の目からボロ、と涙が零れ落ちた。

「坊、俺のこと嫌いにならはりましたん…?」
「…、そうや」
「そんな、嘘や、坊、嘘って言うて」

ボロボロ、志摩の目から止めどなく涙があふれ、落ちていく。もはや俺の姿も映せてはいないだろう。志摩の唇がカタカタと、嘘や、嘘やと呪文を唱えるように動く。俺へと伸ばされるその手を、俺はもう取ってやれない。―――けれど、避けることもできなくて。ぎゅ、とすがるように俺のシャツを掴む手が直に震えを伝えてくる。本当は全て嘘だ。誰よりも誰よりも、志摩のことが好きで、離れたくなど、ない。けれど、けれど。お前を好きだという女性がいて、お前を想ってくれている人がいて。志摩のこれからのためにも、俺の、これからのためにも良い踏ん切りがついたと必死に思い込ませて。離れられなくなってからでは遅いのだ。特別な想いを持ってしまってはこれから、きっとやっていけない。守り守られる世界なのだ。犠牲は必ずでる。俺を守るために、もし、もしも志摩が居なくなってしまうような日が来るのがどうしようもなく怖いのだ。俺たちは近付きすぎた。お互いを求めすぎた。だから、

「…別れよう」

ホンマは好きや。誰よりも好きや。やから、お願いやから俺の事でそんなに泣かんでくれ。

苦しみと同時に零れ落ちてしまいそうな涙を心の奥底で噛み締めた。



   


(その言葉の語尾が震えてしまわないように)


20110928 黒豆
         <祓!>

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